第11話 攫われたリタ+設定

 昼食が終わり、ナタリアと共に冒険者組合の自習室に入った。

 リタが見つけれなかったという本は昨日とは違う場所にあった。恐らく誰かが読んだのだろう。

 そんな些細な事はすぐに忘れ、今日こそ理解するのだという気概で臨む。

 だが、1ページ目を読み終わる前に一旦閉じる事になった。

「パパ?」

「ああ、なんでもない、やっぱり黒魔法ってのは難しいみたいだな」

「よみたい」

 ナタリアはかなりの文字を覚えたから、試してみたいというところだろう。

 俺は難解に思えた本をナタリアに渡す。

 まじまじと内容を読もうとするナタリアは真剣だった。

 もしかすると、簡単に習得してしまうのではないかと焦ったが、それは杞憂だったようだ。


 あっというまに前のめりに俯せになり、寝息を立て始めた。

(ナタリアも仲間だった!よかった!)

 汚してもいけないので本を元の棚に戻した。

 寝てしまったナタリアを抱きかかえ、これからどうするかと考えていると、酒場の方が騒がしくなっていた。

 次第に大きくなる騒ぎに反応してか、ナタリアがうなされ始めた。

「ぃやぁ・・・ぃやぁ・・・じじ・・・ばば・・・いやああああ!」

 暴れ出すナタリアを俺は抱きしめる事しかできなかった。

「ナタリア!大丈夫だ、俺がいる!俺がいるから!」

 以前の記憶だろうか。老夫婦にでも育てられ、何等かの理由で離れる事になったのだろうかと考えていると、怪しく黒い靄がナタリアを包み込み、そして霧散した。

「なん・・・だったんだ・・・いまのは」

 呆気に取られていると、自習室のドアが勢いよく開き、ゴドウィンが慌ただしく叫んだ。


「ライオネル!大変だ!フロイドが何者かに襲われ、リタが攫われた!」

 医療施設に向かうと、意識の無いフロイドが血まみれで倒れていた。

 さらに近くには、フロイドの彼女が泣き崩れている。

「何があったんだ、誰にやられた!?」

「いやぁああああ、フロイドおぉぉ、フロイドぉぉ!!」

 泣き喚き話を聞こうとしない彼女と俺を、聖女が突き放した。

「離れてください、治療の邪魔です!!!」

 強い口調に俺らは気圧され、医療施設から追放される。

 彼女の方はとても話せる状態じゃない。それならば───

「ゴドウィン!誰が攫った!?どこに向かったんだ!」

「誰かは分からん!城壁を飛び越えて東の方に向かったらしい!」

 ナタリアをゴドウィンに任せて飛び出しそうになった。

 だが、ナタリアが俺を掴む力が強く、引きはがせない。

「このままいくしかないか!ゴドウィン、付いてきてくれ!」

 真っ先に向かったのは、マリーネの家だ。

 そこで、なにか人を探す魔法があればと考えた。

 だが、組合を出ようとしたとき、会いたくない奴に遭遇する。

「やあ、ライオネル殿。何やら騒がしいようだが、お手合わせを───」

「それどころじゃない!リタが、リタが攫われたんだ!」

「リタというと、君のパーティのメンバーか。なら、爺を連れてゆけ」

 執事が一歩、前に出た。

「ライオネル殿、リタ様の匂いが残っていそうなものはございませんか?」

 真っ先に思い付いたナタリアの服はどうかと話した。

 昨日、選んでいた時に何着も抱きかかえていたのだから、少しは残っているかもしれないと説明する。

「いいでしょう」

 執事はそういうとナタリアの服を匂い、次に手の甲を、最後に俺を匂った。

「匂いは覚えました。さぁ、参りましょう」

(匂いフェチだったらやべえな・・・)


 それから城門を抜けて城壁沿いに移動した。

 最後に目撃されたという、城壁を飛び越えた場所にゴドウィンが案内した。

「このあたりを飛び越えたのですね」

「ああ、だいたい、この壁の向こう側が、目撃位置だ」

「では、匂いを探索します。ゴドウィン殿、少し上着をお願いいたします」

 執事は、上半身裸になり金耐え抜かれた肉体を披露する、唸り始めた。

「グオオオオオォォォォ」

 体が徐々に大きくなると共に獣のような体毛が生え始め、次第に獣耳が生え、鼻が伸び、唸り終わった時、その姿は人狼そのものだった。

「では」

 そういうと、周辺の匂いを深く吸い込み、少しの間を置いて叫んだ。

「こっちです!」


 しばらく走ると魔の森に辿り着いた。

 魔の森を突き進むと、血の匂いが漂い始める。

 未だに眠り続けているナタリアをゴドウィンに預け、周辺を警戒した。

「リタ!どこにいる!返事をしろ!」

 そう叫ぶと執事が「近くにおられるようです!」と言う。

 さらに集中して警戒する。リタが居るという事は、犯人もいるという事だ。

 そうしていると、木陰から小柄な少年が現れた。


「おおおぉぉ!あんた、ライオネルってんだろ?丁度よかったわ。俺、あんたにめっちゃ会いたかってん!」

 小柄な少年は言いたい事を言い終わると同時に間合いを詰めて大剣を振り下ろす。

 咄嗟に腰の短剣を抜いて受け止める。

 よく見れば、派手な柄かと思った服は血で汚れていた。

「返り血・・・」

(リタが・・・殺された・・・?)

「ああ、抵抗するから、ちょっと手足切り落としたんやけど、あんたの関係者やったん?ワリィワリィ、仕方なかってん」

 そんなことを言いながら、距離を取ろうと後ろに飛びのこうとしたのを見逃さなかった。

 地面を強く蹴り、少年に向かって跳躍する。

 少年は咄嗟に剣を構え、防御態勢をとるがその剣を軽く横に押した。

 傍からは押されただけに見えたが、剣は真横に弾け飛んだ。

 そして、空いた喉元に俺の腕が伸び、首元を押さえつけたまま、大木にぶつけた。

 だが、そんな大木も耐えることができず、へし折れ、次の大木に押さえつけられる。

 また一本、また一本と大木が折れる。

 そのたびに大きな音が響き渡る。

 ようやく止まった時には、少年は白目をむいていた。

「殺すか───」

 首元を押さえつけたまま、改めて短剣を構える。

 だが、その時、背後から俺の名前を呼ぶ声がする。

「ライ!だめ!!」


 振り向くと、そこにはリタが立っていた。

 手足も無事で、多少なりと土がついたのか汚れてはいたが、血が出たような形跡はない。

「その人が助けてくれたの!」

 何を言っているのか理解できず、茫然と立ち尽くしていた。

 そして、次にリタが指さす方向を見ると、そこにはサイが倒れていた。

 そのサイは片手片足が切断され、逃げるように這いつくばっていた。


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設定:回復魔法・ポーションの治療目安

・三等聖女/聖人:少し抉られても治せる。単純骨折なら治せる。

・二等聖女/聖人:指程度の欠損であれば治せる。冒険者組合の治療施設に一人は常駐する決まり。

・一等聖女/聖人:手足首から先の欠損であれば治せる。人体比率でいうと3%程。

・低級回復ポーション:内出血、打撲が治せる。

・中級回復ポーション:少し抉られても治せる。かなりの高額で多少流通する。

・高級回復ポーション:指程度の欠損であれば治せる。時価、要相談、ほとんど見かけない。


参考:今回のサイの症状と対処

 症状:片肘から先と片膝から先を切断。

 対処:切断された部位があれば二等以上で結合可能。元通りになるかは運次第。

    三等が応急処置し、のちに二等の治療が見込まれる場合、切断面を縛って出血を抑える事が望ましい。

    ※断面を魔法でふさぐと、結合できなくなる為。

    すぐに治療を受けれない場合、魔法で仮死状態にするのが望ましい。

    尚、部位欠損であっても治療できる存在は過去に数名確認されている。


設定:白魔法使いの男女比率と遺伝

 一般的に圧倒的に女性が多い為、一般的に城魔法使いの事を聖女と呼称する事が多い。とある事情でミトリア教国では聖人は生まれない。

 親が高位魔法を覚えていた場合、素質が継承される事が多いが、使用するには相応の訓練が必要であり、容易に使える訳ではない。

 上記は『血の継承』と呼ばれ、四属性/黒魔法でも同様に引き継がれる。

 ただし、子が生まれた後に親の魔法技術が成長した場合は、その恩恵を受けれない。


 ***

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 感想など反応あれば非常にうれしいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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