夢幻廻廊

希藤俊

第1話 赤い世界

 真っ赤だった。

 赤が覆い尽くしていた。

 見上げた空の全てを·······


 土曜、地元駅横の大型映画施設に向かう。子供連れが多く煩いのは苦手なので、あえて不人気そうな映画を選んだ。


 小さなシアターに入場、暗い館内に人影はない。1人だけの映画館。開始早々眠りに落ち、終了の点灯で目を覚ました。


 今、施設出口から外に出た。


 空が、街全体が、赤に溶けて融合している。周辺の建物は、影絵のように全てが黒く浮かぶ。


 まるで異次元世界だ。腕時計はまだ12時30分、夕焼けではないし、夜でもない。行き交う人々の姿もなく、駅を隔てる目の前の道を走る車もない。

 

 いつも見慣れている景色より、この赤の世界が何故か馴染む、溶け込んでいる自分がいる。


 映画客だろうか、出口で立ち止まる横を通り過ぎていく。ラフな衣装の男性、ちらっと覗いた横顔が獣のような顔に見えた。


 戸惑いはした、不安はあるが、驚きはないし違和感もない。


 この赤い世界、この世界で生きていたのかもしれない······

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