第4話 自分の力で夢を叶えるために新しい人生を歩み出した
海辺に立つ賢人の手には、あの忌まわしい箱が握られている。
波の音だけが、彼の葛藤を聞いているようだった。
「もう、おまえに頼らない。自分の人生は、自分の力で切り開くんだ」
そう呟くと、賢人は思い切り箱を海に投げ込んだ。
箱は大きな水しぶきを上げ、たちまち波間に飲み込まれていった。
まるで、賢人の過去の過ちも、一緒に海の藻屑と消えていくかのように。
ゆっくりと内陸に向かう賢人は、運命の出会いを果たす。
そこには、かつての恋人・美雪の姿があった。
「山田くん...?もしかして、あの箱を...?」
「ああ、捨ててきた。もう二度と、あんな力に頼ったりしない。俺は俺の人生を、自分の意志で生きるんだ」
賢人の言葉に、美雪の瞳が潤む。
「そう...あなたならできると、信じていたんだ。あの時は、ごめんなさい」
「謝るのは俺の方こそだ。もう一度、やり直させてほしい」
賢人と美雪は、固く手を握り合った。
失いかけた絆が、少しずつ修復されていくのを感じながら。
それから数日後、賢人は久しぶりに漫画を描いていた。下手くそな絵を見ながら、自嘲気味に笑う。
「上手くなるまで、何度でも描き直すしかないな。プロの漫画家になるのは、並大抵のことじゃない」
その時、部室のドアが開いた。現れたのは、編集者を夢見る文芸部の後輩だった
「先輩、漫画の練習ですか!私にも、描き方を教えてください!」
「...ああ、目指すのは同じだもんな。よし、夢に向かって一緒に頑張ろう!」
賢人の心に、かつての情熱が甦ってくる。
それから十年の歳月が流れた。書店に、新人漫画賞を受賞した賢人の漫画が並ぶ。
かつて高校生だった彼は、プロの漫画家への仲間入りを果たしたのだ。
長蛇の列をなすサイン会の最後尾に、美雪の姿があった。
結婚指輪がきらりと光る。
「やっと買えた!読むの楽しみ。今日のご飯のおかずは、手巻き寿司でいい?」
「ああ、もちろん。そしたら早く帰ろう。子供も待ってるだろうから」
「うん。今日は賢人の大好物、いなり寿司を握るから」
賢人と美雪は、幸せそうに顔を見合わせた。
かつて賢人の人生を狂わせた箱は、二度と彼の前に現れなかった。
賢人は、自らの意志と努力で夢をつかみ、充実した日々を送っている。
願いを叶える魔法を失っても、貴重な経験と教訓を胸に刻んだ賢人なら、どんな困難も乗り越えられるだろう。彼はそう確信していた。
輝かしい未来へ続く、新たな一歩を踏み出すために。
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