第4話 強制子守りと子供達
孤児院がこんな状態な訳と、シンシアの事情を聞いた俺は、はっきり言って憤りを感じていた。義憤ってヤツだ。
ただ悲しいかな……俺は只の農民だ。何の権力もない、ついでに言えば金もない。さっき財布ごと司祭様に渡したからな! 奴等のせいでな!
チラッ(′・ω|壁|
チラッ(′・ω|壁|
チラッ(′・ω|壁|
チラッ(′・ω|壁|
「壁からチラ見しても、許さんからな!」
「えっ?」
「ああっと! な、何でもない! ハハハハハ……」
「?……」
ハァー。こんな時、物語とかなら俺はどこぞの金持ちのお貴族様でとか、これは世を忍ぶ仮の姿で正体は隣国の王子だった! とか都合良くいくんだろう。
だが残念ながら俺は正真正銘、先祖代々由緒正しい農民の仔倅だ。
おい脳内の奴等! 少しは反省しているならお金か何か出してみろ!
【審議中】(′・ω)(′・ω・)(・ω・`)(ω・`)
【結論】(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)
⊃[無い袖は振れない]⊂
ああ、そうだろうよ、そうともよ! お前らに期待した俺が馬鹿だったわ……。
そんな不毛なやり取りを脳内でしていたら、孤児院の中からこちらに駆け寄ってくる一団に気付いた。
「シアお姉ちゃーーん!」
「「「おねぇちゃーーーん!」」」
「「シアねぇちゃーーん!」」
「「「ねぇたん!」」」
大きい子から小さい子まで勢揃いだ。全員多少痩せてはいるが血色も悪くなく栄養状態はそこまで悪くはないようだ。良かった、これも多分シンシアが身を削っているお陰なんだろう。
シンシアが手を振り、駆け寄って来た子供達を迎え入れる。
「みんな、遅くなってごめんね! 今日はトラビスさんのお肉屋で鶏肉を安く譲って貰って、ステラさんにお野菜を分けて貰ったから、夕飯は久しぶりに具沢山のシチューよ!」
「「「「「「「「「やったぁっーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」
グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
みんなが歓声に沸く中で、盛大に俺の腹の虫が鳴き響く。
今日は朝、サンドイッチを一つ食ったきりだったからなぁ……全員がこっちを向き、俺に視線を送っている。
「シアねぇーちゃん、こいつ誰?」
子供達の中でも一番身体の大きい子が俺の事を指で指し、シンシアに問いかけた。
「この人はちょっと訳があって、今日一日孤児院に泊まる事になったリベロさんよ」
「えー、こいつが居たら分け前減るじゃん!」
ごもっともです。ダメな大人でサーセン。
「こらっ、ミール! そんな事を言ったらダメでしょ! ポーラ先生の教えを忘れたの?」
「……忘れてないけどさぁ……ごめん」
「謝るのは私じゃないでしょ?」
「……兄ちゃんごめん」
ミールと呼ばれたガキ大将っぽい子が、俺に向かって頭を下げてくる。前院長であるポーラ先生の教えというのが余程効いているのか、随分と素直になった。
まあでも悪いのは、子供やシンシアの食い扶持を奪っている俺だからな……せめて何かお返しでも出来ればいいんだが。
【審議中】(′・ω)(′・ω・)(・ω・`)(ω・`)
【判決】(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)
⊃[子供達と夕飯まで全力で遊ぶ]⊂
ちょーっと!? 脳内スキルさん!? 俺いまメチャクチャ腹が減って死にそうなんですけどっ!?
【審議中】(′・ω)(′・ω・)(・ω・`)(ω・`)
【大丈夫】(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)
⊃[死にはしない]⊂
イヤアァァァァァァァァァァァ!!!!!!
「気にすんな、ミール! よーし俺が夕飯まで、みんなと全力で遊んじゃうぞ!」
「「「「「「「「「ホントにっ!? やったぁぁっ!!!」」」」」」」」」
「良いの、リベロ?」
「ああ、子守りはまかせとけって! その代わり、旨い飯を頼むぜ!」
脳内の奴等に操られている俺は、キラッキラッの瞳で親指をシンシアに突きだし、ウィンクをしながら満面の笑みで答えた。
少し前から思っていたんだが、この操られている人格ってかなり熱血感溢れるっていうか、物語の主人公ポジションを地で行くような奴だよね?
何か二重人格っぽくなってない? 俺、普段こんなキャラじゃないんだけど!?
「ありがとう、リベロ! それじゃ、宜しくね? みんな、余り迷惑掛けちゃダメよ?」
「「「「「「「「「わかったぁーーーーー!!!」」」」」」」」」
俺の心の叫びも空しく、夕飯作りの為に建物の中に消えるシンシア。二重人格が悟られなかったのは良かったが、子供達の期待と羨望の眼差しが痛い。
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それから夕飯までの時間、俺は子供達と全力で遊び倒し、体力気力共にスッカラカンになっていたのだった……ハイ。子供達の体力を正直舐めていました。
まあそれでも子供達が凄く楽しそうで、喜んでくれたのが一番良かったよ。夕日が沈んだ後の庭は真っ暗で見えなくなったから室内に入って遊んだんだけど、思った通りに内部も酷くてビックリしたが。
魔石を使った照明魔道具さえ無く、時代錯誤の蝋燭をこの孤児院では今も使っている。当然光量も少ないのでここは大人しく、みんなに本を読み聞かせる事にした。
ただ周りを見渡すと何となくだが、荒れてるというより人為的に荒らされているって感じだ。
子供達が室内で暴れたとか、イタズラで壊したとかそういう類いのものじゃない。壁なんか明らかに、何かで叩き潰したような跡があった。子供の力じゃとても無理だって一目で分かる。
これはシンシアが言っていた例の、地上げの奴等の仕業か。信じられないが、ここまで証拠が揃っているのに衛兵が動かないとか……領主をはじめ腐りきってるな。
別に俺は正義感を振りかざすつもりはないが、流石にこの孤児院の現状を見ちまうと胸糞が悪くなってきた。
「おにいちゃん、はやくつづきよんで!」
「おおっと、悪い! えーっと、どこまで読んだかな?」
部屋を見つめながら熟慮していると、子供から声が掛かり我に返る。俺の事を曇りのない瞳で見つめてくる子供達。
少なくとも大人のゴタゴタに、この無垢な子供達が二度と巻き込まれる事はあってはならない、と俺は強く心に思った。
なぜならこの子達はこの孤児院にいる時点で、既に運命を弄ばされているのだから。
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