鶏焼肉

真夜中3時33分

鶏焼肉

 わたしは、15年ほど前に離婚した。10年前に新しい彼氏が出来たことから、地元に帰り、実家の近くに一軒家を買い、高校生になるひとり娘と、その彼ひろぺんと同棲している。しかし、ひろぺんと付き合う前に、不倫をしていた圭人と街中で偶然出逢い、昔の関係が忘れられず、月に一度、ホテルで過ごすようになり、1年以上たつ。

 その彼は既婚者で、日々、仕事に追われ、鬱鬱とした日々を過ごすなか、毎朝、LINEでやり取りをしている。そして、今日も。


「圭人さんおはようございます」


「美紀さん、おはようございます」


「今週も今日で終えますね、どうにかこうにかしてきて下さい」


「ありがとう!!金曜日、ほどほど頑張りましょう!」


「ほどほど金曜日ですね◎」


 圭人への朝の挨拶が終わり、わたしが出かけるとき、ひろぺんはまだ寝ていたので、通勤途中にひろぺんにLINEする。


「ひろぺんおはようございます、やはり寝てましたね。ワイン呑んでモリモリお菓子食べて、やはコタツ寝。うさぎ達はなんですかね、ダンダン凄かったです。どうしましたかね。目覚めましたよ。

 松阪鶏焼肉は津駅近くで決まりました。一日挟んですぐ出張でせわしないですが、あの美味しい鶏焼肉で呑めるのは堪りませんね✨楽しみです。」


「送信間違えてない?」


 間違えた。圭人にLINEしてしまった。


「とり消せて無かったです、ごめんなさい。」


「次回逢うのは、中止でお願いします。」


「了承しました。本当にごめんなさい。」


「今まで、ありがとう。」


 もうとり返しがつかないとかと思ったが、次の日の朝、謝りのLINEを入れる。


「おはようございます。

メールの誤送信で深く傷つけた事、本当にごめんなさい。圭人さんから送られてくるメッセージは「メッセージ削除されました」が出てたので、こちらから送った既読の付いてないメッセージも削除できるように思ってましたがダメだったんですね。精神的に辛い時に不快な思いをさせてしまったと申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 お互いにパートナーが居る状態でのお付き合い、不要な情報で嫌な気分にならない様に配慮しているつもりで、仕切れて居ない自分にほとほと愛想尽かせたかと思います。

大好きな気持ちは嘘ではないですが、大切な人を大切に出来ない私は圭人さんとお付き合いするに相応しくないですね、ごめんなさい。

 圭人さんと濃くお付き合い出来様々な初めてを経験させて貰えて楽しくて嬉しかった。ありがとうございます。

 お互いの気持ちは推し量れないですが私の気持ちは変わって居ませんので待ちます。」


 その日の夕方、帰宅途中に、圭人からLINEで返信が来る。


「誰でも失敗はあると思います。

 美紀さんが僕に送るLINEと違ってテンション高い文面や、スタンプを器用にこなしているのが知れて良かったです◎

 そして、美紀さんは、僕がいなくても、堪らないほどの楽しく生きられるのも知れて良かったです◎

 ただ、たぶん、これから美紀さんと逢っても“ひろぺん”って言葉が頭の中に、鶏焼肉屋さんの網の上で鶏を焼いて食べて、網に残ったこげのようにこびりついて離れないから、ひろぺんがこの世から羽ばたかない限り、以前のようには接することが出来ないかもしれません。すいません、とり扱いが難しくて。それでもよければ。

 そんな感じで、とり乱しているというよりかは、良かったことが知れた感じがします。

僕と一緒だと、神経すり減りますよ。」


 通勤帰り、どこかの家の花壇の鶏頭の花と夕陽が交差して見える。

 わたしの黒歴史。とりま、LINEを送る相手のとり間違いには気をつけて。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鶏焼肉 真夜中3時33分 @mayonaka_333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ