箱の中身はなんだろな?

八万

箱の中身はなんだろな?


「何!? 何!? もぉ……何なのよぉぉぉぉぉっ!!!」


 箱の中に何が入っているのよおぉぉぉっ!


「いやぁっ、やだっ、なにっ!? やだやだやだっ!」


 もう帰りたいっ! 帰っていい!? えっ? だめなの!?


「いやぁぁぁぁぁっ! うわっ! いやぁぁぁっ、いやぁぁぁっっっ!」


 ちょっとそこっ! 何爆笑してんのよっ! ぶちのめすわよっ!


「やっやっやっ、いやだぁぁぁっっっ! 触りたくなぁぁぁぁぁいいいっ!」




 そんな恐怖の時間が五分ほど続いただろうか。


「はい、いったん止めまぁす」


 ディレクターからの声が掛かり、私はホッと胸を撫で下ろす。




 私の名前は御神みかみさくら。


 現在、最強アイドルグループに所属していて、メンバーの中でも一番の人気を集めているわ。


 つまり、トップ・オブ・アイドルなの。


 その私が何でこんな酷い事をさせられているのかしら。


 私が極度のビビりなの知ってて、笑いものにしようとしてるに違いないわ。


 こんなぶざまな姿を放送されたら、私のザ・アイドルのイメージが崩れちゃうじゃない。


 ファンが減ったらどうしてくれるのよ。


 だからバラエティ番組は嫌いなのよ。


 まったく、クソスタッフが。




「さくらちゃん? 申し訳ないんだけど、そろそろ箱の中のモノ触ってもらわないと、収録おしちゃうからさ……ね?」


 私が、ひな壇でお茶を片手にぐったりしていると、クソディレクターが手を合わせて、申し訳なさそうに言ってくる。


「あっ、はいっ! すみませんでした! 私こういうの苦手で……でも、がんばって箱の中身触ってみます」


 私はとびきりのアイドルスマイルで返事をすると、クソDも安心したのかホッとした様子で収録準備を始めた。


 まったく、アイドルを演じるのも楽じゃないわ。




「いやぁぁぁぁぁっ! だめだめっ、いやぁぁぁっっっ! いやっ……なにこれぇぇぇっ!?」


 私は意を決し死ぬ思いで、箱の両サイドに開いた穴から手を入れて、中のモノをチョンチョンと指でつついてみた。


「なになになにっ!? 毛が、毛が、毛が生えてるぅぅぅぅぅっっっ!? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 私があまりの恐怖に穴から手を抜いて、ぴょんぴょん飛び跳ねていると、メンバーやスタッフがそれを見て腹を抱えて笑っているのが横目に見えた。


 くっそぉぉぉぉぉっ! 腹立つぅぅぅぅぅっ! でも、ここは我慢っ! 私はアイドル、御神みかみさくら! もう一度よっ。


「いやっ、なにっ、なんか硬い? 硬くて……棒状で……毛が生えてる……い、い、いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ! なんなの! なんなの! いやぁぁぁっ!」


 またしてもパニックに陥った私が、バタバタと悲鳴を挙げながら右に左に走り回っていると、司会者が「誰か、止めてあげてぇ」とニヤつきながら言うのが聞こえる。


 くっ、いい笑いものじゃない! もう怒った! 本気を出してビシッと正解を答えて、私の名誉を挽回してやる! 次で決めるわ!


「なっ、なにっ!? 先っぽが……えっ? 待って待って……先っぽが……先っぽが……ヌルヌルしてるぅぅぅぅぅっっっ!? うぎゃぁぁぁぁぁっ!」


 得体のしれないモノを想像して、失神しそうになるも何とか気力をふり絞り、穴から出した手に付着したヌルヌルを、恐る恐る嗅いでみる。


「……くさっ! ん? そうでもない? なんなの、この独特のにおい……」


 毛が生えてて? 硬くて? 棒状で? ヌルヌルで? 変なにおい?


 っ!? まさか……これって!? う、うそでしょ!? これってテレビで放送できるやつなの!? で、でも……これしか思い浮かばないし……よしっ。


 一か八かよ! さくら!




「さあ、時間切れですっ! 答えは何っ? さくらさんっ」


 司会者に答えを促され、私は覚悟を決めた。


「箱の中身は……」

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