学園入学試験④

端的に言って試験会場は半壊していた。

まあ、あれほどの爆発だ。更地になっていてもおかしくなかった。

壊れていない残った側の建物に他の受験者がいる事を見るに爆発と同時に受験者を移動させたのだろう。


うちの蒼華は意外と気遣いの出来る人間なのだ。


「それはそれとして……」


俺は振り返り人影に向き直る。


「何してんのお前」


ぐったりとして動かない褐色肌筋肉少年の上に足を乗っけて、天に向け腕を振り上げている。


「何って、勝利ポーズよ」


お前こそ何言ってんだと言わんばかりに不思議そうな顔をして蒼華が言った。

先程の言動を聞く限り、三流魔術師だと馬鹿にされたのだろう。

相手側も蒼華の危険性を見抜けなかったのか。

蒼華と言えばプライドと実力の高い魔術馬鹿だと知れ渡っている筈なのだが……。


「蒼華、とりあえず足を退けようか。そして学園に謝りに行こう。修繕費を要求されたら走って逃げよう」


今こうしている間にも既に相当な魔力がこちらに向かってきている。

恐らく学園の教師だろう。

こんなレベルの奴らに囲まれたら、まず逃げられないぞ。


蒼華を見ると目が合った。

どうやら同じ事を考えていた様だ。


「「よし!逃げるか!」」


俺と蒼華は学園の屋根を伝って橋にある車へと向かって駆け出した。

がしかし、学園の構造を知らない俺らが相手の領域テリトリーで逃げ切れる訳もなく────────


「よお!先刻さっきぶり!」


背後に現れた円香の拳骨で動きを封じられ捕縛された。





###




俺は今職員室の前に立たされていた。


どうやら蒼華はここの学園の教師と知り合いだった様で今まさに説教されている。


その教師と会った瞬間、説教が長いタイプだと悟った俺は「従者だから主人の命に従っただけなんですぅ」と言い許しを乞った。

そしたら廊下に立つという罰だけで許された。


従者最高!


職員室に引き摺り込まれてく蒼華が血走った目で俺の事を見ていたから、綺麗な笑顔で手を振ってやった。


「お前ここ禁煙だぞ」


「喫煙者は何時いつでも何処どこでも煙草吸えなきゃ落ち着かないんだよ」


喫煙者への盛大な偏見を口にして煙を吐くヤニカス。久七十円香。


「お前ら一体何したんだよ。教師連中があんなに動くことなんて見た事ないぞ」


「蒼華が試験会場爆発したからだろ。蒼華がもし暴れたら並の奴じゃ相手にならないし」


「双柳だけじゃなくお前が居たからってのもあるだろうけどな」


「買い被って貰っちゃ困るな」


「自己評価が低いってのもタチが悪いな」


コイツは妙に俺の実力を高く見積もっている。

円香相手に数分持つか持たないか程度の実力だぞ?大した強さじゃないだろう。


それより今は学園に入学出来るのかが不安だ。

あんな盛大にやらかしたんだから出禁になったっておかしくないけど……。


「入学の事なら大丈夫だと思うぞ」


円香は吸い終わった煙草を携帯灰皿へ入れながら言った。


「2週間くらい前に入学試験の招待状が届いただろ?あれが合格通知書みたいなもんだよ。色々選考して見込みのある奴に招待状を送ってる。入学試験なんてのは形だけだよ」


「とんだ茶番劇だな」


人生で一度は言ってみたい台詞が言えた!


「それじゃあ、また」


そう言って円香は何処かに去っていった。


さて、そろそろ俺の罰も終わっただろ。

蒼華の説教はまだ終わらなそうだし食堂にでも行っているか。

そう考えていた俺の肩がガッと掴まれた。


「私を見捨てて自分だけ逃げたな?」


振り返るとそこには血走った目をした女がいた。

言うまでもなく蒼華だ。

少しずつ肩を掴む力が強まり、爪がめり込んできた。クソ痛い。


──────こんな時は!


「今日の晩飯ハンバーグにしてやるから許して」


蒼華の機嫌をなおす魔法の言葉を言うと見る見るうちに表情が変わっていく。

先程までの鬼の形相が嘘の様に消え、口が裂けるんじゃないかってレベルの笑みを浮かべた。


「私2個ね」


「はいはい」




###




「今年の受験者はレベルが高いな。一昨年の五大生もそうだが傑物ってのは意外とポンポン出てくるもんなのか?」


「一応ウチはトップレベルの教育機関ですからねぇ〜、おのずと集まってくるんじゃないですかぁ〜?」


五つある寮を取りまとめる五人の学園教師。

彼らは今回の新入生の寮分けを行っていた。


「やっぱり今年一の目玉は双柳蒼華!数百年に一人の逸材ですよ!10代という括りなら既に世界一なんじゃないですか?彼女は才能の塊ですよ!」


蒼華を議題に盛り上がる五人の教師を他所に学園長は従者の情報をまとめた本を眺めていた。

開かれたページに写っているのは双柳響。

名字は主人のものを借りたのだろう。


つまり本来の名は響。

黒髪黒瞳。外見的特徴は特にはない。

強いていうならば面が良いところだろうか。

中性的な顔立ちで受けが良さそうだ。

しかし容姿が良くとも他の魔術師と比べたら華はない。

そんな大して記憶に残りそうのない少年。


けれど忘れるはずがなかった。


「魔女の弟子……」


あの女の愛弟子。

どういう訳か蒼華の下僕となっている。


しかし良い機会だ。

どうせ八咫烏やたがらすの奴らも響を手に入れようと躍起になる事だろう。

奴らが気づく前に私の物にしようではないか。


大海を思わせる蒼く大きい魔力。

世界を上から見ている様な高次的な目。


魔術そのものと評される魔女の寵愛を一身に受ける彼は魔術師として最も頂点に近いと言っても過言ではないだろう。


『寵児』双柳蒼華

『魔女の弟子』響


この二人が主従となって学園に入学してきた。


突如、姿と何か関係があるのか?


これからの世界が楽しみだ。

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