輝きの筐 ― アーケードゲーム『プリパラ』稼働終了によせて

獅子吼れお🦁Q eND A書籍版7/25

キラキラはいつまでも筐の中に

 先日、Xのタイムラインに、アーケードゲーム『プリパラ』稼働終了のニュースが流れてきた。

 ついに、か。と私は思う。私はそのゲームを、熱心にプレイしていた時期があった。もう、何年も前のことだ。

 私の創作活動は、この『プリパラ』から始まったといっても過言ではないので、感慨深いものがあった。


 知らない人のために説明しておくと、『プリパラ』は2014年頃からゲームセンター等で稼働していた、女児向けのゲームだ。スーパーやデパートのゲームコーナーで見たことがある人も多いと思う。大きな縦型の画面をした、あれだ。

 映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』で話題になった『プリティーリズム』シリーズに連なる作品で、後継作として『キラッとプリ☆チャン』『ワッチャプリマジ!』がある。後継作があるということは、『プリパラ』はすでに全国的な展開が終わって久しいのだが、シリーズのグッズを扱う『プリズムストーン』というショップを中心にわずかながら稼働していた。今回の稼働終了は、その保存された筐体も、稼働を終えるということだ。


 熱心にプレイしていた、といっても、全国稼働していた時期に女児だった、というわけではない。そのときにはもう私はしっかり大人だった。

 2015年頃だったか、当時つきあっていた人に誘われて始めたのがキッカケだ。たしか名古屋駅前の家電量販店だったと思う。正直、大の大人が女児ゲームをやるのもどうかと思ったが、私はすっかり夢中になってしまったのだ。

 自分のクリエイトしたキャラ(いわゆるマイキャラ)が、それはそれはカワイく、しかも自分の着せたい服を着てくれて、すごくよく踊る。衝撃だった。


 100円を入れてゲームをプレイすると、コーデのカードと『トモチケ』が排出される。

『トモチケ』は、マイキャラの印刷されたカードの半券みたいなもので、パキっと折って他の人と交換することができる。この『トモチケ』をゲーム中で読み込むと、ゲームの中のライブで、読み込んだ『トモチケ』のキャラがいっしょに踊ってくれる。逆も然りで、『トモチケ』を渡せば、他の人のゲームの中に自分のマイキャラが登場する。このゲーム体験が、すごくよかった。友人やパートナーと交換するだけでなく、ゲームセンターの筐体の隣には交換ボードがあり、そこに『トモチケ』を刺していくことで、他の人の『トモチケ』をもらうことができた。そんなゆるい交流があった。


 私のマイキャラは、こむぎ色の肌に青い瞳の元気な女の子だった。元々創作気質だったのか、その子と何度もライブをするうちに、次第にキャラが立っていった。Twitterで『プリパラ』好きをフォローして交流して、『トモチケ』を交換して一緒にライブをしていると、他の人にもマイキャラの個性が認知されていった。

(『トモチケ』は小さい紙なので、郵送で交換をすることができた。おかげで、あったことのない人のマイキャラたちともライブをすることができた)


 そこからは、どんどんハマっていった。

『プリパラ』は、メディアミックスでも3人でチームを組むことが多かったので、ハマるうちにマイキャラがあと2人増え、3人でチームでライブをするようになった。

 新しいコーデでマイキャラに似合うものがあれば必死で筐体に100円を入れた。スマホでの画面撮影には飽き足らず、秋葉原や渋谷のゲームセンターに設置された、ゲームの動画を録画できる『録画台』に足しげく通って動画とってキャプチャしたりした。

 ニンテンドー3DSでゲームが出て、コーデを自分でデザインできるようになれば、チームのオリジナルコーデを作って、その『トモチケ』をみんなに配ったりした。

 本当に、楽しかった。


 マイキャラが好きな人たちの中には、創作をする人も多かった。私もマイキャラ創作を始めた。設定を決めてTwitterでちょろちょろ動かしているだけでは、満足できなくなったのだ。もっと彼女たちの物語が見たいし、他の人にも見てほしいと思った。結果出来た小説が、私の最初に書いた長編小説になったし、最初に作った小説同人誌になった。

 本の中には、『プリパラ』の筐体を飛び出して、ドラマを繰り広げるマイキャラたちがいた。私のこだわりや、見たかったものや、ちょっとしたフェチや、いろいろなものが詰まった、宝箱みたいな本になった。手に取ってくれた人たちにも好評で、感想もそれなりにいただいた。どれもこれも、すごくうれしかった。


 私は大人で、『プリパラ』のメインターゲットからハズレている。ゲームセンターで小さいイスに座って、明らかに合っていないサイズの筐体に背をかがめてやるのは、最後まで恥ずかしかった。

 でも、ネットやイベントや、たまにゲームセンターでも、同好の士の大人たち……プリパラおじさんやプリパラおばさん(ネットスラングだ)といっしょに、その一部として――そして、マイキャラを愛する同士で交流し、創作のコミュニティに受け入れてもらったことは、今に至るまで私の創作の原点になっているのかも、と思う。


『プリパラ』は、なりたい自分になれるアイドルテーマパーク、という設定だった。その箱庭の中で、私はマイキャラと出会い、彼女たちに想像の翼を広げてもらった。今、私は、小説家としてデビューに向けて進んでおり、そういう意味では「なりたい自分になれた」のかもしれない。


 私は『プリパラ』『プリチャン』を引退して久しい。稼働終了を聞いても、ひっくり返して最後にやりにいこう、という気持ちにはならない。

 当時必死にあつめたコーデたちも、交換したトモチケも――別れてしまったパートナーとか、会えなくなった人たちのものも――、同人誌も、全ては段ボールの奥深くにしまわれている。当時大量にとった動画は、全て外付けHDDに格納されていて、見返すということもあまりない。

 でも、私はたしかに、あの数年間……『プリパラ』アイドルとして過ごした。その思い出は、見返さなくても、思い出の箱の中に大事にしまわれていて、今でもキラキラの光を放ち、私の創作の原動力となってくれている。


 ありがとう、『プリパラ』!



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