23話 天使と堕天使のティアラ①

ロレッタ視点


「おはようございます。今日から1週間よろしくお願いします」


 今週のバイトは街で評判の装飾品店。こじんまりとしたお店だけど、全て店主さんが1人で手作りしたらしい。ちなみに私が被るティアラもここの店主さんが作ってくれる。


「あんたが新しい王妃のロレッタか、王妃の命令だから従うが、邪魔はするなよ」


 60代くらいのいかにも職人感のあるおじいさんが怪訝そうな目で私を見る。今までのバイト先はどこも歓迎してくれたからこの対応には少し驚く。


「国民と一緒に仕事をするとは、よっぽど天使のティアラに認めてもらうために必死なんだな」


 店主さんは鼻で私を笑う。流石にこれにはムッとする。


「私はただ、何もしないで贅沢をするだけの生活が嫌なだけです!」


「ほぉ〜 そうかい、面白い王妃さんだな。ならやってみな」


 店主さんは私にどこにでもありそうな小石と、ヤスリを何枚か貸してくれた。


「その石を磨いてみな。まずは一番ザラザラなやつで磨く。その後少しザラザラしたやつでで磨く。石ころが宝石みたいに輝くまでやってみな」


「分かりました!」


 早速私は腕を捲ると店が閉まるまで休む事なく小石を磨き続けた。日中はお店の隅で磨き、夜は王宮に戻って自分の部屋でも磨き続けた。そして1週間が経過した。


「どうですか店主さん?」


 最初は薄汚れた石だったけど、今は自分の顔が映るくらいピカピカになった。角も取れて手触りも最高。いつまでも撫でていたい。


「これは大したものだな……」


 店主さんは私が磨いた石をみて目を丸くする。そして深く頷いた。


「ロレッタ王妃。あなたの本気はよく伝わりました。ご無礼だった態度をどうかお許し下さい」


 店主さんは深く頭を下げて私に謝罪する。これは認めてもらえたって事かな?


「もしよろしければその石を天使のティアラに使わせていただいもよろしいですか?」


「はい、もちろんです! お願いします!」


 店主さんは私が磨いた石を大切に受け取ると、店の奥に案内してくれた。何やら様々な道具が置いてある。どれも凄そうだ。ふと全体を見渡していると、隅の方に1つのティアラが雑に置いてあった。


「あのティアラは何ですか?」


「あれは失敗作ですよ。あえて名前をつけるなら使のティアラですね」


「堕天使のティアラ……」


「まだ自分が未熟な時に作った代物です。そしてこちらが天使のティアラです」


 店主さんは作業台の上に置いてあるティアラを見せてくれた。見た目は堕天使のティアラと瓜二つだ。


 ティアラには赤や黄色や紫など様々な色の宝石が埋め込まれている。でも1箇所だけ宝石が入っていない空洞があった。もしかして……


「この空洞にロレッタ王妃が磨いた石を埋めようと思います」


「えっ、いいのですか!? ありがとうございます!」


 私はお礼を言うと、ティアラをじーっと見つめた。自分で磨いた石が使われるのはとても光栄だ。完成が楽しみだな〜




* * *


テスタ視点


「ロレッタめ……次こそ一泡吹かせてやる!」


 以前クリフトとロレッタのデートを邪魔したテスタは、1ヶ月の出禁から解放されて、王宮内をウロウロしていた。


「貴族は贅沢をするのが仕事よ! 面倒な事は庶民にやらせるべきよ! 私が王妃になったらもっと税を上げて贅沢をしてやる!」


 鬱憤が溜まっていたせいかつい声が大きくなる。流石にこんな事を誰かに聞かれたら不味い。でも遅かった……


「貴族は贅沢をするのが仕事ね……」


 背後から男性の声が聞こえて振り返ると、チビで、デブで、はげた男が醜い笑みを浮かべていた。確かこの方はコンスタンス公爵だったかしら?


「えっと……今のはその……冗談と言いますか……」


「誤魔化す必要はない。ワシも同意見じゃ。貴族とは特権。贅沢をして何が悪い? 税を上げるのは大賛成だよ」


「でっ、ですよね! やっぱり贅沢をするのが貴族のあるべき姿ですよね!」


「いかにも。しかし、ロレッタが邪魔だな……あの女が必死に働くせいで、ワシらが贅沢をしていると庶民共が文句を言ってくる。王妃には君がなるべきだ。それを証明してみたらどうだ?」


「証明? 一体どうすればいいのですか?」


「簡単な事だよ。使。あれは王妃としての資格があるものが被る事で輝く。間違いなくティアラは君を認めるはずだ。ロレッタに王妃の器があるはずがない!」


「そうですよね! 庶民と一緒に働くなんて下女みたいじゃないですか? 絶対に私の方が適任よ!」


「よし、ここは一つ協力をしよう。ティアラの授与式は選ばれたものしか参加できない。幸いワシには招待状が来ているから、。その代わり無事に王妃に認められたらに任命してほしい」


「国王ですか……分かりました。任せて下さい!」


 その後テスタはコンスタンスと密談を始めて念入りな計画を企てた。




* * *


ユーゴ視点


 たまたまその場に居合わせていた、ロレッタの忠実な子分のユーゴは、物陰から2人の会話を聞いていた。


「ワシの連れという事で参加しなさい。その代わり無事に王妃に認められたらワシを国王に任命してほしい」


「国王ですか……分かりました。任せて下さい!」


 テスタとコンスタンスという奴らはその後も念入りな密談を始める。


「なるほど……これは要注意だな……」


 ユーゴはその場を離れると、ロレッタに報告を入れて調査を始めた。

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