21話 お忍びデート②
テスタ視点
「よく聞きなさい、必ずロレッタのデートを台無しにさせるわよ!」
テスタはメイドたちに言い聞かせると、建物の影からロレッタとクリフト様がやってくるの待ち続けた。そして約束の時間になるとターゲットが現れた。
「ロレッタ! 今日は本当にありがとう。まさか君の方からデートに誘ってくれるなんて光栄だよ!」
「私の方こそ、忙しいのに時間を作ってくれてありがとね」
「僕にとってロレッタとの時間は最優先だからね。さぁ、今日は思う存分楽しもう!」
ロレッタとクリフト様は随分と仲が良さそうに会話をしている。あの女は一体どんな強引な手を使ってクリフト様を取り入れたのかしら? 絶対にそのバケの皮を剥いでやる!
「ほら、あんた達何をしているの? 早く馬車を出しなさい!」
「はっはい、すみません」
私はメイドが連れて来た馬車に乗り込むと、手綱を手に取った。そして猛スピードでクリフト様とロレッタの横を通り過ぎた。早朝に雨が降ったおかげで、泥水が跳ねてロレッタの服を汚す。
「あら? ごめんなさ〜い」
私は高笑いをしながらチラッと横目でロレッタを確認した。これでデートもメチャクチャよ。泥だらけの汚い女を連れて歩くなんてクリフト様も嫌がるはずよ!
私は心の中でガッツポーズをした。でも、予想外の出来事が起きた。
「大変だ。直ぐに新しい服を買いに行こう!」
クリフト様はあろうことか汚れたロレッタと手を繋ぐと、堂々と街中を歩き始めた。
「離して下さい、クリフトも汚れてしまいます!」
「断る。ロレッタはいつもいい服を送っても嫌がるからな……今日くらいは僕が選んでもいいよね?」
ロレッタは頬を赤らめながら俯く。クソ、なんなのよあの女!
「テスタ様危ない!」
「えっ……!?」
2人の事に気を取られていたせいで、正面の壁に衝突するまで全く気が付かなった。豪華な馬車はメチャクチャに壊れて、大切な馬も逃げていってしまった……どうしてこんな事に!
「テスタ様!」
「大丈夫よ、まだまだこれからよ! ほら、早く行くわよ!」
私は何人かのメイドに後片付けをさせると、残りのメイドを引き連れてロレッタとクリフト様の後を尾行した。
汚れた服を着替えて、2人がレストランに入っていく。その店は私が事前に店主を買い取った所だった。ふっふ、次こそ終わりよ!
「ここがロレッタのオススメのお店か〜 楽しみだな〜」
「スープがとっても美味しいって評判なの!」
相変わらず2人は楽しそうに会話をしている。でもこれで終わりよ!
「頂きます!」
クリフト様がスプーンを使って口に運ぶ。ふふっ、そのスープには大量の唐辛子が入っているのよ。こんな激辛スープを飲まされたらきっとクリフト様も激怒するはずよ!
「こっこれは……」
クリフト様はスプーンを置いて体を震わせる。そしてロレッタの方に向き合った。
(よし! 上手くいったわ! ざまーみなさいロレッタ!)
「これ……凄く美味しいよ! どうして僕が激辛好きなのを知っていたんだい!?」
クリフト様はさらにスープを啜ると一瞬で平らげてしまった。えっなに? 激辛好き? 何それ?
「激辛? 私のは普通だけど……クリフトも気に入ってくれてよかったわ」
結局食事はとても楽しそうに過ぎていった。2人は席を立つとレストランを後にする。クソ! こうなったら最後の手段よ!
ロレッタとクリフト様が最後に訪れたのは噴水広場だった。日が沈みかけてロマンチックな雰囲気が漂う。この後ロレッタはクリフト様にプレゼントをするらしい。生意気な女ね。でも既にすり替え済みよ!
「クリフト、その……これを受け取って」
ロレッタは頬を赤らめて恥ずかしそうにしながら、小さな白い箱を取り出した。
「えっ、ロレッタから僕に? ありがとう! 一生の宝物にするよ!」
クリフト様がそっと箱を開けると中から蛇の抜け殻が出てきた。ロレッタは「キャァ!!!」っと叫んで座り込み、クリフト様も驚いた表情で目を見開く。ふふっ、これで終わりね!
「ロレッタ、これは一体?」
「ごっごめんなさい! 間違えました! 私が選んだのは、こんなものじゃなくて……」
ロレッタは涙目になりながら必死に言い訳をする。無様な姿ね……流石にクリフト様も幻滅するはずよ! 私はクスクスと笑みを浮かべた。でも次の瞬間、信じられない事が起きた。
「蛇の抜け殻には金運や幸運をもたらす意味があるよね。ロレッタは物知りだなぁ〜 これからもよろしくね」
クリフト様はロレッタを抱き寄せると、あろうことは額にキスをした。ロレッタの頬が夕日の様に赤く染まりギュッと目を閉じる。
(どっどうしてそうなるのよ! 悔しい、何なのよあの女! 絶対に化の皮をはいでやる!)
「あの……テスタ様、今よろしいですか?」
歯軋りをしながら2人の様子を観察していると、メイドの1人が弱々しい声で話しかけてきた。
「うるさいわね! 何? 用があるならさっさと言いなさい!」
「実は……壊れた馬車の後片付けをしていたらご主人様が通りかかりまして……」
「えっ、お父さんが来たの? ちゃんと言い訳をしておいたでしょうね? 私は悪くないんだから!」
「言い訳をしておいた? それはどういう意味だ?」
低くこもった声が聞こえて冷たい汗が流れる。恐る恐る振り返ると、目を釣り上げて怒りを露わにしたお父さんがいた。
「街中を猛スピードで馬を走らせた様だな。市民に怪我をさせたらどうするつもりだったんだ? 高価な馬車を台無しにしやがって……罰として1ヶ月出禁とする!」
「そっそんなぁ……」
私はバタッとその場に座り込むと、王宮に帰っていくロレッタの後ろ姿を睨みつけた。
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