14話 一方その頃バーバラは②

バーバラ視点


 痩せ干せた土地と言われたハタマ村もバーバラの活躍により劇的に改良された。今年は豊作で誰1人欠ける事なく冬を越せそうだ。畑仕事を終えた私はお爺さんの家に向かった。


「お爺様、今日は狩りを教えてくださるのですよね? 早速行きましょ!」


 声をかけると中から弓矢を持った老人が現れた。顔はシワクチャで背中も曲がっているけど、目付きは鋭くて力強さを感じる


「いらっしゃい、バーバラちゃん。それじゃあ早速行こうか」


「はい、お願いします!」


 今日の目標は畑を荒らすイノシシの駆除をすること。せっかく野菜を育てても荒らされたら意味がない。一生懸命作ったのに横取りされるのは腹が立つ。村の人たちのためにも絶対に捕まえてみせる!


「バーバラちゃん、これを見てご覧」


 お爺さんの後ろについて山に登っていると、足元に足跡があった。凄く大きい……


「多分この近くにいるよ。気をつけてね」


 ザワザワと木々が揺れて獣の匂いが風に乗って流れて来る。不意に背後の草むらが大きく動く。目標のイノシシは木々をかき分けると、自ら私たちの元に飛び出して来た。


「お爺様、危ないです!」


 イノシシはお爺さんに向かって突進する。あんな巨体に突撃されたら死ぬかもしれない……それだけは絶対に嫌だ!


「止まりなさい! ストップガン!」


 私は右手を指揮者の様に激しく振って呪文を唱えた。イノシシはまるで金縛りにあったかの様に動きを止める。


「お爺様、今です!」


 お爺さんは弓矢を構えると、眉間に矢を放った。巨大なイノシシはバタッと倒れて永遠に動かなくなった。


「ありがとうバーバラちゃん、おかげで助かったよ。それにしても凄い魔法だね」


「ありがとうございます。お怪我がなくて本当によかったです!」


 お爺さんはシワクチャな顔をより一層シワクチャにして私の魔法を誉めてくれた。怪我がなくて本当によかった……でも私はこの魔法が嫌いだった。


 時を止める魔法……それは数少ない魔導士にしか扱えない貴重なもの。私はその魔法を幼い頃から使えたため、自分は特別なんだと思っていた。


 だからクラスの中で自分が一番偉いのは当然で、世界は自分を中心に回っていると本気で考えていた。


 希少な魔法がいつの間にか私を慢心させてしまった。今思えば思い上がりもいいところだ。もし許されるのであれば王国に戻ってロレッタに謝りたい。彼女がいなかったら、あのまま悪魔に乗っ取られていたはずだ……


「どうしたのバーバラちゃん? 浮かない顔をして?」


「いえ、なんでもありません。今日はありがとうございました」


「お礼を言うのはワシのほうじゃよ。今晩はイノシシ鍋パーティーをしようか」


「はい!」


 その日の夜は村人全員が村長さんの家に集まってイノシシ鍋が振舞われた。肉は臭みがなくて柔らかいし、野菜も甘くて美味しい! ほっぺたが落ちてしまいそうだ。


「それでな、バーバラちゃんが魔法を使ってイノシシを止めてくれたんだ!」


 お爺さんは自慢げに私の事をみんなに話す。村の人々は関心した様子で聞き入っているけど、恥ずかしいからやめてほしい……


「バーバラちゃん、そういえば早朝に王国から手紙が来ていたわよ」


 お婆様は隣に来ると一通の手紙を取り出した。王国を追放された私に一体何の用かしら?


「えっと……嘘⁉︎ 永久追放を取り消し⁉︎ 王国に戻ってもいいってことだよね?」


 手紙を読み終えて確認をするように顔を上げると、みんなが笑顔で頷いた。


「バーバラちゃんは良い子だからね。もう王様は怒っていないと思うよ」


「こんないい子が永久追放なんて信じられないね。いつも一生懸命働いてくれたんだからな」


「バーバラちゃんのおかげでハタマ村は前よりもずっと良くなったよ!」


 村の人々の温かい言葉に不意に目元が熱くなる。最初に来た時はロレッタに復讐をする事だけを考えていた。でも次第に村の人々の温かさに触れ、自分で作った野菜の美味しさに気づき、いつの間にかこの生活を楽しんでいる自分がいた。


「こっ、こちらこそありがとうございました。よっ……よそ者の私にも優しくして……丁寧に野菜の育て方を教えて頂き、狩りの仕方も……」


 まだ話している途中なのに涙が溢れて言葉が詰まる。村の人々は何度も深く頷いて私の元に寄り添う。

 

 もうこのままハタマ村で過ごすのも悪くない。でも、私にはやり残した事がある。王国に戻ってちゃんとロレッタと第二王子のクリフト様に謝ろう。許してもらえるか分からないけど……

 

 翌朝、荷物をまとめると私は小屋を出た。最初に来た時はこんな場所で生きていく自信はなかったけど、今では大切な第二の故郷だ。私は村の人々に感謝を伝えると、皆んなに見送られながらハタマ村を後にした。

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