巡り

 蓮夜と共に自分のクラスの出し物を飛び出してきた僕はそのまま文化祭で大盛り上がりを見せる校内を歩き回っていた。


「うめぇー」


「そうだな。めっちゃうまい」


 僕と蓮夜は売店で買ったチェロスを食いながら雑談を繰り返す。


「何する?めっちゃ色々な売店があるけどさ」


「……んー、何をしようかな」


 僕の言葉に蓮夜が首をかしげる。


「何かしたいこととかある?輪廻は」


「僕は料理部が出しているところに行ってスイーツを作りたいわ。材料も、料理道具も向こうが用意してくれているらしいんだよね。この学校のガチな料理道具でスイーツ作りたいんだよね」


「……女子力高いなぁ」


「別に今時、男でも料理が趣味くらいそこまで不思議な話でもないだろ」


「……まぁ、そうだけどねぇ」


 僕の言葉に蓮夜はちょっとだけ歪めた表情で同意する。


「お前が特にやりたいことないのならそこ行っていい?」


「うん、それじゃあそこ行こうか」


 僕の言葉に蓮夜が頷き、そのまま二人で料理部が活動している家庭科室へと向かうのだった。


 ■■■■■


 十年くらい僕は料理を作っているのだ。

 経験値が周りのクラスメートとは全然違うのである。


「……うわぁ、本当にうまい」


 料理部の人たちよりもはるかに料理がうまいと言ってよかった。

 僕が作った大きなケーキを囲んで料理部の人たちが口々に自分を褒める言葉を口にする。


「わぁ……かわいい」


 そんな僕の隣で、初めてクッキーを作った蓮夜が歓喜の声をあげていた……そのしぐさというか、雰囲気は確実に女子であった。

 こういったら失礼だけど、かわいいクッキー作ってかわいいー!ってなるのなんて女子だけだと思う。


「かわいいクッキーですね。うまく作れていると思いますよ」


 そんなことを僕が思っている間に、料理部の一人が蓮夜の方へと声をかける。


「えっ……あっ!」


 それを受け、蓮夜の表情が一気に崩れていく。

 

「……?」


 表情をゆがませる蓮夜に対して、声をかけた料理部の一人不思議そうな表情を浮かべて首をかしげる。

 それもそうだろう。

 彼の複雑な事情を知らない人からしてみれば、かわいいクッキーを作って、それをかわいいと褒めたらキレるなんてもう意味不明である。


「蓮夜っ!」


 僕は彼が何かを言い出す前にその名前を呼ぶ。


「僕が作ったケーキをふるまうから一緒に食べよ。お前もケーキは好きだろう?」


「お、おう……そうだな」


 そして続く形で告げた僕の言葉に頷いた蓮夜はケーキを切るための包丁を握る僕の方へと近づいてくるのだった。

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