練習

 気まずいことになるだろうと予想される学園祭。

 そんな準備の段階で今。


「どういう状況?」


 僕はメイド服を着たクラスメートたちに囲まれていた。

 今の状況としてはクラスの中にポツンと置かれた椅子の上に僕が座り、それをクラスメートたちで囲っている状況。

 ちなみに陽太は僕のすぐ後ろに立ち、嫌々ながらもメイド服を着ている蓮夜は一人でちょっとだけ離れた場所に立っている。


「いや、ちょっと君に手伝ってほしいことがあってね?」


「大量のメイド服で僕を囲ってどうするつもりだい?なんだ?僕をTS化させる儀式でも始めるのか?お前もTSしてメイドになって」


「いや、そんなことは出来ないよ……ただ、練習に付き合ってほしいってだけ」


「なんの?」


「メイドの」


「……はぁ」


 僕は頷く。

 なんとなく察した。


「これから私たちがメイドとして接客してみせるから、それについての評価が欲しいのよ。私たちはもともと男で、かわいいメイドとしての立ち回りにちょっと自信がなくて。だから、この中で最も女子力があるであろう輪廻に色々なものを採点してもらおうと思って。どう?頭いいでしょ?」


「うーん、すっごい矛盾。もう女子力って言葉を廃止した方がいいよね、それ」


 女の中でただ一人の男。

 それが最も女子力高い。もうわかんねぇなこれ。


「それで、どうかな?」


「……元々のお前らを知っている僕からするとすっごい気まずいし、むずかゆい気持ちになるんだけど」


 元、男子のクラスメート。

 それに囲まれて、彼女たちからメイドとしての接客を受ける。

 さすがにちょっと複雑。


「あと、一人を三十人で囲うのはやばくない?」


「それは私たちも同じだから安心して?性格が変わっていっているのは理解しているし、過去の記憶だってしっかりと持っているからね。こっちの方も全然戸惑う。みんなでやっているのはみんなでやれば怖くないの精神だから」


「あぁ……そう。まぁ、あくまで何も変わっていない僕が広い心で受け入れよう」


 ここでうじうじ悩んでいても仕方ないだろう。僕はどんと受け入れることにする。


「ありがとっ!それじゃあ、行くねっ!」


「「「すぅ……」」」


 僕の言葉に目の前にいる彼女がうなづくと同時に、周りの全員が一斉に息を吸う。


「「「おかえりなさいませっ!ご主人様っ!」」」


 そして、そのまま全員が僕へと大きな声であるあるの言葉を告げる。


「……うーん」


 受け入れる……受け入れるとは言ったものの、やっぱりちょっと複雑で受け入れられるないかもしれない。

 僕は恥ずかしそうにもじもじしだしたクラスメートたちの前で何とも言えない気持ちを抱くのだった。

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