後悔

 一条輪廻。

 彼は学校中の人間がTS化するという珍事に巻き込まれた子であり、そんな中で彼は半ば無意識的に学校の全員を異性として見ないよう心掛けていた。

 これまでの関係性を維持し、余計なトラブルを生まないために。

 それは心が女であるとわかっている陽太であっても同じだった。

 輪廻はたとえTS化したとしてもみんなに変わらぬ日常を、そんな心持ちをやさしさで持っていたのだ。


「……うぅ」


 だが、それは一人の恋する乙女にとっては最悪だった。


「……どうして、私は言えなかったんだろう」


 輪廻のことをTS化する前から好きだった陽太にとって、己のTS化はまさに転機であり、希望であった。

 自分が隠していた本当の自分も明かし、受け入れてもらった。

 自分が好きなのは男の子であるということは問題なく伝えられ、相手に自分の好きな人がいることまでしっかりと伝わった。

 でも、肝心の好きな相手には己の好意がまるで届いていなかった。

 自分の好きな相手である輪廻は、陽太に自分とは違う別の誰かが好きなのだと勘違いされてしまったのだ。


「……なんで、僕はぁ、あそこまできてぇぇぇ」


 そして、陽太もそれが勘違いであり、好きな人間が輪廻であると告げることができなかった。


「……輪廻もひどいよぉ。ぼ、僕の周りにもう男の子なんて輪廻しかぁ、残っていないことも彼は知っているじゃん!あぁぁぁぁぁぁぁ」


 完全なデートのつもりで水族館へと向かい、最大限おめかしして向かった。

 それでも肝心なところは何も進まなかった今日を振り返って、陽太は後悔のままベッドにうずくまっていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 後悔。

 なんで、言えなかったのという後悔。

 

「……なんでぇ、僕は」


 そして、何度も思った。

 何度も呪った。

 自分が男として生まれてきてしまったことへの怨嗟を口にする。


「……女って、見てくれていないよぉ……ひっく、ひっく……うぅぅ」

 

 陽太はその場で一人、涙を流していくのだった。

 

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