恋愛

 水族館をひとしきり回って満足した後、二人で館内を後にした頃ではもう空もだいぶ暗くなっていた。


「楽しかったね」


「うん、そうだね」


 僕は自分の隣を歩く陽太の言葉に頷きながら、彼女の歩幅に合わせていく。


「金魚の特設コーナーは新鮮だったなぁー、あまりなくない?金魚の注目」


「可愛かったけどね?」


「それはそう」


「でも、確かに新鮮。金魚とかを水族館であまりピックアップすることはないから」


「確かに」


 帰り道、話しながら告げるのはくだらない雑談ばかりである。


「……そ、それでさ」


「うん」


「僕が、心は女の子って言ったの覚えている?」


「うん、もちろん覚えているよ」


 僕は陽太の言葉に頷く。

 なかなか忘れることはないと思うけどね?あれは。


「そ、それで……僕の恋愛対象が、女じゃないって話でしょ?僕は、男の子が好きなんだよね」


「うん……あっ、もしかして好きな人でもいるの?」


「……っ!?」


 ふと、思いつきで言ってみた僕の言葉。

 それを受けて、陽太の顔が急に真っ赤へと染まり始める。

 その反応を見て僕は自分の予測が間違っていなかったことを確信する。


「おぉー、いいじゃん!いいじゃん!えっ?誰が好きなの?」


「いや、それは……そのぉ」


「あー、言えないのか。まぁ、言いたくないならいいけどねぇー、何か相談事とかがあれば言ってよ!気軽に乗るよ。友達として応援しているからっ!」


「……ぁ」


 僕が陽気に告げている中、突然陽太のほうが足を止めて立ち止まり始める。


「ん?どうしたの?」


「……いや、その……う、うん」


 それへと疑問の声を上げる僕に対して、陽太はそっと視線を外して口調をどもらせる。

 どうしたのだろうか?


「う、うん……応援、しててね?」


 本当に何だったのだろうか?


「おう、任せろやー、男子校唯一の肉体、精神両方男の子だからね。男子に関する相談事なら僕が一番だよ」


 そんなことを疑問に思いながらも、僕はそれらの疑問を押し流して陽太との会話を続けるのだった。

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