帰り道
何事もなく終わった今日の高校の帰り道。
「……大変だった、本当に」
僕は深々と、魂からこぼれ落ちるような感想を口にする。
本気で大変だった。こんな大変な一日はもう他にないだろう。
同級生どころか、学校にいる僕以外の全員が女になったという珍事。
結局のところ僕は体育には参加せず、美少女に変わったクラスメートたちを複雑な気持ちで屋上よリ眺めながら時を終えた。
そのあとの学校生活も何処か気まずかった。
周りの面々の態度がいつもよりよそよそしくなるし。
……普通は、さ。TSした側がよそよそされるものじゃないのだろうか?何も変わらなかった僕が周りからよそよそしくされるってどんな状況なのか。
本当に解説がほしい。
「……本当に、大変そうだったね」
そんな僕の言葉に答えるよう、いつも一緒に帰っている陽太が口を開く。
ちなみに蓮夜の方は帰る方面が違うの別である。
家が徒歩で行ける距離にある僕と陽太とは違って、蓮夜は電車だからね。
「ほーんと、大変よ。TS病が及ぼしてくる影響がデカい。自分の父親もTSしたし」
「えっ!?おじさんも女の子になっちゃったの?」
「そうだよ?……朝のお母さんの荒れ具合はすごかったよ」
お母さんはお父さんのビール腹がきれいさっぱり消え失せ、肌もきれいになっていたことに、化粧水を持ちながら体を震わせていた。
「そ、そうなんだ……」
「そぉーなのよ。はぁー、マジで困るわ。別に家はいいとして、学校の方はどうするよ。マジで」
学校中の面々が女になり、これから僕はどうなるのだろうか?
「学校の方針としてこれからどうするのだろう?このまま男子校を貫くのは無理があるでしょ」
「……確かに。新入生が戸惑うね」
「かと言って女子校になった僕が死ぬ。これはもう普通に共学になるのかな?」
「多分そうだよねぇ」
僕の言葉に陽太はうなづく。
「まぁ、でも……出来るだけ普通に暮らすだけだよなぁ……」
「……」
色々あった。
でも、それでも、僕はこれまでのように暮らす他ないだろう。
「蓮夜とか結構メンタル不安定みたいだし」
男から女になってしまった。
うちのクラスで最もそのことについて深く受け止めているのはあいつだろう。男であることを望み、僕と一緒に連れションしようとし、あまつさえ女の姿で立ったままションベンしようとしていたときは流石に止めた。
大便器の方でしっかりとおしっこを出して出てきたときの蓮夜の表情はなかなかに衝撃的なものだった。
「……そう、みたいだよね」
「陽太の方はどうなの?」
「い、いや……僕の方は、その……あんまり」
「そっか。それなら良かった」
僕は陽太の言葉にうなづく。
「っとと」
そんな風に陽太と会話しながら帰り道を進んでいると、自分が彼と離れる十字路にまでやってくる。
「それじゃあ、また明日。僕は普通に真っ直ぐ帰るわ」
いつものように僕は陽太と別れ、自分の帰り道を進もうとしたところ。
「ま、待ってっ!」
少しばかり慌てた様子の陽太が僕の服の裾を掴む。
「……僕の、家。来ない?」
そして、そのまま彼は僕を自分の家に誘うのだった。
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