第47話 星の覇者

 圧倒的な力が闘技場に舞い降りた。全身鎧姿の男だろうか。



「おいおい、誰だ?」

「全く神源教団である我らの邪魔をするとはな」

「例の代行者か? いや、違うか……」




 神源教団の団員、計二名が現れたヘルボルトを眺めていた。教団、には等級が存在している。一番下の信徒であるが、彼等はその中でも上澄の力を持っている。




「オーズドル様復活のため、この国の貴族から金を巻き上げる算段が崩れた。あれを排除しよう」

「噂の代行者ほどではないだろう……」




 信徒二人が降り立つと、ヘルボルトはヘラヘラと笑いながら両手を上げる。




「──今回は挨拶程度なんだがな」

「神の復活の計画を邪魔した。挨拶ではすまんぞ」




 信徒は男二人、一人は剣、もう一人は双剣を持ち合わせている。客席ではそれを眺めていた貴族達が盛り上がっていた。



「いいぞ! 面白くなってきた!!」

「よーし! あの双剣に賭けるぞ!!」




 ガヤガヤと和気藹々としている客席だが、反対に信徒二人は苦渋に顔を歪ませている。



「下賎な人間どもが」

「やはり神に、この世を捌いてもらわなくてはならない」

「──ククク、俺は宇宙人だからなぁ。この星の人間事情は知らないねぇ」

「黙れ。もうすぐ、この国は夢に包まれ浄化される」

「その儀式の邪魔をしたお前は何者であろうと処分する」




 双剣の信徒は白衣に身を包み身長は2メートルを超えている。圧倒的な身体から繰り出せれる。超高速の双剣の連打。




(信徒である我々は悪魔の細胞を体に宿している。神の眷属様のお力を拝借しているのだ!! 負けるはずがない……)




 音速を超える動きに観客席に居るもの全ては、一人のメイドを除いて僅かにも見ることはできない。




「──おおう、いい動きだな」

「凌ぐか! この俺の動きを!!」

「──いいねぇ、この星の人間はよく動く。そんな動かなくてもいいだろ?」




 殴打、斬りつけられる双剣の間をハリの穴を通すように一発。たった一発で決着をするには十分だった。




「……っ!! 双剣を使ったアイツが負けるだと」

「案外、良い動きだったぜ。この星の人間にしてはだが」

「神の力を持つ我らに勝つなど……神の力に対する冒涜、お前の存在自体が許されん!」

「いいねぇ、お前も元気いっぱいだな」





 双剣が敗れ、その次に行き着く暇もなく一本の剣を持つ信徒が入る。信徒には特段特別な階級は存在していない。


 ただの剣を使う存在であり、悪魔の細胞を入れ込み適合をしている存在の一般信徒。しかし、剣使いの彼は他とは一線を超える存在だった。



「刀剣・千本」

「ほう?」




 ヘルボルトが感嘆の声を上げる。彼の周り、いや、この闘技場全体に気付けば地面に刺さる形で何本も剣が刺さっていた。




「神の力の一端だ!! 無限に増幅する欲望!! 欲望の力、願えばどんな力も思いのままだ!! 剣を千本用意することもな!!」」

「おしゃれな力だな。昔の俺なら興奮してだだろうなぁ」

「この剣が尽きるまでお前を斬り続ける……!!」




 地面の剣を抜き一本を投げながら、ヘルボルトに近づく。



(これで、投げることで注意を引き付け。本命の剣で斬る!)



 単純な思惑だが狙い自体は悪くなかった。剣を投げることで隙が生まれるのは明確であったからだ。



 だが、しかしそれは同格同士の戦いでの話。




「ば、化け物が」

「褒め言葉だねぇ、この星の人間は褒めるのが上手で気分が高揚するよ」





 剣使いは地面に倒れていた。





 地面に顔を埋めていた。何が起こったのか、この会場にいる実力者程度では見えることはない。



 単純な話だ。殴打をくらわせた、それだけに過ぎない




「術者の気絶と同時に、剣が消えた。なるほどねぇ、任意の発動。しかも、あくまで魔力で剣を再現してるだけのハリボテね」



 クツクツとヘルボルトは笑っている。勝負が喫した瞬間に千本の剣が全て消えたことを冷静に分析していた。



「しかも、消えたってことは継続的に魔力を送ることで剣の形を保っていたわけだろ。見た目は派手だが、能力は地味だったな。まぁ、良い見た目だったのは褒めておくがね」





 彼は二人の信徒を倒すと、背を向けて闘技場の出口へと足をむける。その様子を見て、貴族達は声をかけた。




「おい! もういくのか!! もっと面白いのを見せてくれ! 今の戦いは全く何があったのか見えなかった!!」

「そうだ! もっと面白いのはないのか!!」

「見えるように蹂躙してくれ!!」




 声が彼に届くとヘルボルトは足を止める。



「──今回はあくまで挨拶だけだ。また、来るぜ」




 煙に紛れるように彼は消え去った。彼が現れたことにより、この神源教団の場が荒れ始める。



 あくまでも悪魔の力をアピールし、その力を扱える、悪魔の細胞を売る。その目的をヘルボルトによって砕かれた。


 試験体の悪魔などは倒され、完成系とも言える信徒もあっさりと倒された。


 それを見せられた貴族はこの力に、投資や援助をする意味があるのかと神源教団、天明界を糾弾した。


 このままでは研究資金、活動資金の大幅な削減をされる危険性があった。これはオーズドルの貴族達からのお金だけの問題ではない。



 昨今【代行者】と名乗る存在によって、天明界の面々が打破されている状況があった。それだけでも、悪魔や神の力が圧倒的でないのかもしれないという懸念が各方面の貴族や商会、とある王族達にはあった。


 金を出すほどの価値があるのか。神の力、悪魔の細胞はいずれ、我々に大きなリターンを齎すのか?




 その疑問が大きくなれば資金が消える。そうならないように天命界などは定期的に大会などを開き、その力をアピールしていた。だが、それをわかっていたかのように代行者もまた現れる。




 代行者の圧倒的な力に、神の力を持つ者、悪魔の細胞を操る者、神の眷属である悪魔そのものが打破される。



 資金を出す者達の疑問が大きくなる中……【ヘルボルト】と名乗る宇宙人がオーズドルに再び現れた。



 ──そして、その力を使い悪魔の細胞を叩きのめした。




 ──これに危機感を覚えた神源教団はすぐさま、オーズドル周辺に最高幹部を派遣することを決定。


 

 同時に、神の力、欲望神オーズドルの力の一端を示すことを貴族達、金持ちの紹介人などに通達を起こす。




 






◾️◾️





 はぁー。取り敢えず倒しておいたぜ! まぁ、あれくらいは軽いもんだけどねぇ!!




「団長、久しぶり」

「ふむ、ロッテか」




【アルカナ幹部】のロッテが俺の前に現れた。


俺とレイナは闘技場の一件が終わると近くの宿屋で休んでおり、刺身とか肉を食べながら適当に談笑をしていたのだった。




「流石団長、耳が早いね」

「ん?」

「ヘルボルトと名乗る宇宙人が現れたのはもう知ってるよね。それのせいで、この国で──欲望神オーズドルルの力の一端が披露されるらしい」

「へぇ」




 うーむ、なにがどうなってそうなってんのかイマイチ理由がわからない。




「まさか、あーし達以外にも神源教団や天明界に反旗を翻せるほどの存在がいるとはね……」

「ふむ、そのようだな」

「まぁ、他にも戦っている組織はあるって聞くけど。そこまで強くないから意識はしてなかったけど……ヘルボルトってのはなんか、他とは違う感じする」

「その、ようだな」




 ふむ、俺のことだか話すと面倒なので黙っておこう。




「団長、ヘルボルトに勝てる?」

「──勝つさ」




 勝負することなんて出来ないけど……





「だよね。心配なんてしてないけど……そうだ。神の力の一端が出るって言うから……アルカディア革命団の幹部が沢山来る。全員で総力戦」

「ふむ、相変わらず動きが早いようだ」

「団長ほどじゃないよ」





 総力戦になってきた……そ、そんな大事にする必要アルカナ? アルカナ幹部だけに?



 なんて考えている余裕はない。




 どーしよ、なんか事情が段々と分からない状況になってきた。俺は取り敢えず、ヘルボルトとしてこの国の貴族とか叩きのめしておくのが良いのかな?



 よく分からん神様の力とかはこいつらに任せておいていいかもしれない。



「今回、私から指示はない。好きに動くと良い」

「わかった」




 指示出したことなんて殆どなかったけど。さて、どうしよう。あの、俺が昔教祖ごっこしてた革命団はどうしようか……?



 うむ! 取り敢えず考え過ぎても仕方ないから、ヘルボルトで悪徳貴族とか、神源教団を倒そう!!



 神の力の一端を示すみたいなよく分からんイベントは【アルカナ幹部】に任せよう!!



 これで決まり!!!

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