第43話 欲望の神に嘗て抗った存在
貴重な土日なのに第三王女と妹に連れられて外に出ている。二人は学園でも最近絡んでいる様子を多く見るけど、仲が良いんだろうか。
どっちも我儘な性格だから類似性がある。似ているような人を好きになるみたいなやつだろうか。
「お兄様! キビキビ歩くの!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「お前、昨日夜に俺の部屋に泣きながら来たくせに、よくそんな態度取れるよな」
「あぁ!? あ、あれは」
イルザは最近、悪夢を見ることが多いらしい。内容は聞いても教えてくれないのだが、一緒に寝ると大丈夫らしい。
「へーい兄弟! 元気ないね! どうした」
「普段からこんなんだろ。普段から周りがヨイショしてくれる王族には分からんだろうけどね」
「おおい! なんか、棘あるな!」
第三王女が一人でぶらぶら歩くのって問題だろうと思ったんだけど、一応イルザが護衛役としての役割を担っているらしい。
前に祭典で結果残してるからかなり、学園だと評価されて人気者らしいな。俺は優勝をしても彼女もできないけど!!
革命団の幹部とか女性団員からきゃーと言われたことあるけど、あれは洗脳状態の恋愛だから論外だよ。
「お兄様、ちゃんとして。これから行くのは【六大神】の一つ、【欲望神オーズドル】の石碑がある場所なんだから」
「へぇー」
欲望の神様ねぇ。本当の欲望の化け物は我々人間なのかもしれません……とか、言ってた時代もあったなぁ。
「兄弟、オーズドルル宗教国家は知ってる?」
「行ったことはあるかな」
「へぇー、僕もあるんだ! 一緒だね」
「あ、はい」
オーズドルル宗教国家、懐かしいなぁ。
昔、【
俺も過激派作って好き勝手やってやろうって思ってたんだよね。だってほら、あっちもしてるんだから俺だってしてよくない?
──宗教の教祖、狡猾な蛇。ヘルボルト。昔は結構信徒居たんだよねぇ。途中で過激派が消えてから面白みがなくなって辞めてしまったけど。
所謂黒歴史、ってやつだ。宗教とか今では心底くだらないって思っていたけど、教祖はやってみたいって思っていたんだよねぇ
「お兄様、ついたわよ、これが欲望の神オーズドルの石碑」
「ふーん」
「欲望の神。全ての欲望を叶える力を持っていると言われているわ」
「へー。彼女とか欲しいな」
「お兄様には彼女できないから安心して……(アタシがいるしね)」
そんな七つの願い玉を集めたらどんな願いも叶えるなんて都合のいいことは現実には起こらないってことだな。俺も当てにしてないから問題ない。
「王女様的にはどうなのよ」
「うーん、僕の国は一応大地の神を祀ってるみたいなもんだからね。あんまりコメントは避けたいかなぁ?」
「意外と真っ当じゃない」
「これでも王女だぞ☆」
「うざ」
「もっと気を使って!」
確か王族は六大神を最も信仰していた者達の末裔なんだっけ?
昔ほどではないが、信仰をしているとされている国の長が他国の神に対して発言するのは適切ではないな。外交問題とかに発展しそう。
我が神を侮辱した賠償とかね……あー、アホらしい
「イルザ、ちょっとあっちの方に売店あるから行ってくるわ」
「もう、お兄様飽きるのが早すぎなのよ」
流石は石碑のある場所。観光地的な役割も果たしているのだろうか。売店とかも沢山置いてある。
「あ、お肉の串ください」
「あいよ! 500ゴールドだ!」
肉串、やはり肉はいい。旨いからな。それに最近、お金儲けのために立ち上げた財団は上手くいきそうなのだ。
誰にも言わずに一人でこっそりとやっていたビジネス、遂に素晴らしい方向に舵を切れそうだ。
「うむ、旨い。これは旨いな、今度幹部を呼んで焼肉をするかな」
「わん!」
む? 足元に青い瞳と真っ白な銀色の毛並みを持っている犬がいるぞ。おやおや、可愛いじゃないかぁ
「どうした、主人と逸れたのか」
「わん! わん!」
「うむ、何を言っているのか知らんが……肉食べるか」
手に乗せて肉をあげるとパクツイて食べる犬。綺麗な毛並みだから野良の犬じゃないだろうな。主人がどっかにいるのかもしれない。
人懐こい犬だ
「それじゃあな。主人に心配かけるなよー」
「わん!」
「おい、ついてくるな」
「わんわん!」
「尻尾をすごい振ってる……人に慣れてるなぁ」
この犬……しょうがない。主人が見つかるまで面倒を見てあげるか
◾️◾️
アタシと第三王女は石碑を観察をしていた。まぁ、第三王女は地面に歩いている芋虫を見ているのだけど
「欲望の神……アタシも名前と歴史とかは多少知ってるけど」
「……欲望の神は人を惑わせる」
「誰!?」
気づけばアタシの隣に紫の髪を持つ女の子が座っていた。瞳は髪と同じく紫だった。
「貴方、イルザ・ラグラーね」
「知ってるの?」
「祭典で上位結果を持ってるのだから知っている」
「そう。言われてみればそうね」
「……なぜ、ここに? 貴方みたいな貴族の娘が来る場所ではない」
この人……強いわね。代行者様には全く及ばないけど、独特の空気感が強者感を出している。
「六大神について調べるの。貴方は知っているのかしら? だとしたら教えてくれない?」
「……神か。それは断る。なぜなら、今はそれどこじゃないから」
「どういうことよ。それどころじゃないって」
「……この国の問題。欲望の神の力を欲する存在。信教の闇が蝕んでいる。昔のように……」
「信教の闇……」
そういえば、聞いたことがあったわね。昔、欲望の国オーズドルルは物騒な事件が多かったって
今では落ち着いているらしいけど……
「昔、物騒な時代があったとは聞いたけどそれと関係があるのかしら?」
「……ある。闇の時代が嘗てあった。しかし、一度は終わりを迎えた、狡猾な蛇により……だが、彼が去った後我々は再び光を失ってしまった」
「狡猾な蛇?」
「……ヘルボルト。謎の甲冑を身に纏っている男。だが、全てが終わり彼は去ってしまった。きっと頼りきりの私達に嫌気がさしたんだと思う」
ヘルボルト。聞いたことがない名前ね
「……彼が消えた後、再び秩序が崩壊をしてしまった。欲望の神の力を求め、神源教団が再び牙を剥いた」
「やっぱり絡んでいるのは、教団なのね」
「……嘗て国の裏にて教団の過激派と戦っていたのはヘルボルト一派。ただ、ヘルボルトは表向きにはならなかった。名前が大きくなる前に国を救い去っていったから」
ヘルボルト……そんなのが存在していただなんて。代行者様と言い、アタシが知らない強者は沢山いるのね
「……ヘルボルト、なぜ去ってしまったの?」
「この国、神が絡んでいるなら協力するわ」
「……やめておいて。貴方の後ろの王女が絡むと余計なことが起きる」
「彼女はなんとかするわ」
「……それなら彼女を国に置いてもう一度ここにきて。貴方はどこか……彼に似ている」
それだけ言うと彼女は消えてしまった。一体全体、何者なのだろうか……?
「王女様、国に一旦帰るわよ」
「えぇー! お肉の串が名物だって……」
「はい、帰るわよ」
全く、これが王女だなんて……まぁ、意外とトップはこれくらい呑気な方が逆にいいのかもしれないわね。
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