いつもどおりの朝


「なんか……すごい声したけど、どうしたの?」


 私は寝癖で好き勝手暴れている髪を手櫛で整えながら、キッチンで立ち尽くしている彼女に後ろから声をかける。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「まぁ……あんな尋常じゃない悲鳴聞けばイヤでも起きる」

「ごめん……」

「いや、どうしたの?緊急事態?」

「いや……あの、虫がね……飛んできて」

「ヤバっ……で?その虫、どうした?」

「窓の外にエスケープしてもらった」

「グッジョブ。お疲れぇ……」


 そう言いながら、私は洗面台に向かって身支度を整える。

 遠くで鳴りはじめた無意味なアラームが止まる。

 どうやら彼女が止めてくれたようだ。

 その事に心の中で感謝しながら、化粧水やらファンデーションやら口紅やらで顔を作っていく。

 ある程度の身支度を終えて、部屋に戻ると、彼女がテーブルに朝ご飯を並べてくれていた。


「ごめん、今、手伝う……これ、もう持って行っちゃっていい?」

「それはまだひと手間加えるから……もう置いてあるサラダにドレッシングをかけてくれる?」

「オッケー……いつも君任せにしてすまんねぇ」

「いや、得意な方がやるのは普通じゃない?その代わり、電気系統はあなた任せだし」

「そうだけど、そうそう私の得意分野が発揮できることないから。やる率は私の方が少ないでしょ?」

「でも、あなたの得意分野は基本的に緊急を要している時が多いから。とっても助けられてますよ?」


 そう言って、彼女の手によってひと手間加えられた料理がまた一つ、テーブルに置かれていく。

 彼女もそのまま席についたタイミングでどちらからともなしに食べ始める。


「いただきまーす」


 私たちは、いつもどおりの朝を迎えた。



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