【KAC2024 3】賽銭箱の悲劇

かきぴー

第1話

 ども、賽銭箱です。ちょいと無駄話にお付き合いの程を。

 あたしが生まれたのは、500年くらい前のことでございやす。ええ、初めの頃はね、皆さん米を投げ入れて下すってたんですが、いつ頃からか銭を入れられるようになりやした。

 その頃は、そりゃあ、奥まで手ぇ突っ込んで銭取ろうとする輩もおりやしたよ。それで、上の棒の間隔を狭くしてね、さらには板を張って、箱を裏返しても銭が出てこねえように工夫されたりねぇ。

 そしたらあの板のおかげで、銭を入れた時にいい音が響くってんで、喜ばれたりしてね。何が幸いするかわかんないねぇ。そう、銭を投げ入れて音を立てるってのは、けして悪いことじゃあねえんですよ。神道の方は特に、ガランガランを鳴らして、柏手打って、銭も音を立てて放り投げてもらっていいんです。音が邪気を払うってんでね。

 お寺さんの方は、静かにお参りしなさいと言われるところもあるかも知れやせんが、それも明治以降のことでございましてね。江戸時代までは神社も寺院もごっちゃになってたんですよ。明治に入って神仏分離令って法令ができて、神道と仏教をキチンと分け出したんですよ。それまではお坊さんが神主を兼任してたり、お寺の敷地に鳥居があったり、と結構ファジーな感じで。まさに神様仏様って言葉に、日本の信仰に対する懐の深さが現されてるなあ、と思うのでございやす。

 それでもまぁ、お寺で柏手はおよしになった方がよござんすね。ええ、仏様はそんなこと気にされないと思いやすが、周りの目がちょっと恥ずかしく感じてしまいやすからねぇ。もちろんあたしも気にしませんよ。お賽銭さえ入れてもらえたら、あたしは本望でございやすから。

 おっと、和尚さんがおいでなすった。あたしがここでお喋りしていたことは内緒にしておいておくんなせぇ。


「古くなったせいか、賽銭箱がうるさくてかなわん。静謐を売りにしてるうちの寺には似つかわしくないな。そろそろ新調するかのぉ」

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【KAC2024 3】賽銭箱の悲劇 かきぴー @o_keihan

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