【三題噺】龍の珠
XX
こんな〇〇〇〇は嫌だ!
毎年の夏の日。
親友の命日になると思い出すことがある。
「なぁ、俺は今日死ぬと思うんだ」
親友は若くして癌に罹り、若いせいで進行も速く。
あっという間に末期になった。
俺は仕事がそれなりに忙しかったが、親友の最期は俺が看取らないと、親友はひとりぼっちで逝ってしまう。
それがあったんだ。
親友は無口で、本ばかり読んでる奴で。
彼のことを「気持ち悪い」って言ってるヤツがたくさん居た。
そのせいで、彼はまあ孤立していたな。
根は悪い奴じゃ無いのに。
大体、彼は何も悪いことはしてないんだよな。
喋んないだけだ。
なので、俺は暇を見てはお見舞いに行っていたんだけど。
そんなとき、病室に入るなり言われたんだ。
「おい……弱音を吐くなよ。まだ分かんないだろ」
俺はそんな気休めを言う。
言わずには居られなかったんだ。
認めてしまうのが嫌だったから。
すると彼は微笑んで。
「いや、良いんだ。別にすでに覚悟は出来ているから」
そう、弱々しいけど明るく言った。
多分本当なんだろう。
だけど……
俺の方は、まだ覚悟が出来ていなかったらしい。
それ以上、何も言えなかったよ。
無言の空間。
俺は簡易椅子を引っ張り出して来て、親友の横たわるベッドの傍に座り。
親友はそんな俺の横で黙っていた。
いい加減、沈黙に耐えかねて、俺は
「なぁ」
言いかけると
「俺が死んだら、この町のもう使っていない古い水門に行って、そこの繁みに隠してある金庫を回収してくれないか?」
そんなことを突然言われたんだ。
金庫の番号なのか、メモを1枚差し出しながら。
俺は正直訳が分からなかったけど、親友の頼みだから、メモを受け取り。
「分かった」
そう、言ったんだ。
そして、その日。
予告通り、親友は危篤に陥り。
そのまま、帰らぬ人になった。
親友の死に伴う全ての後処理を終えると俺は。
親友の最期の頼みを叶えるために、町の古い水門を目指していた。
色々あって使わなくなった溜め池。
誰も管理しなくなって、放置された水門。
その傍に、背の高い雑草で作られた繁み。
そこを探ると、親友が言った通り、小さな金庫があったんだ。
それを引っ張り出し、俺は金庫のダイヤルを回し、開けた。
すると
『……さあ、最後の願いを言え。どんな願いでも叶えてやろう』
赤い目、逞しい体躯、鱗の肌、蛇の下半身……
中から爬虫類人類って言っても良いような、怪物が現れたんだ。
……アレそっくりの。
アレとは、だいぶ小さかったけど。
「俺は世界中の本を読みたかったからね。永遠の命が欲しいと願ったんだ」
……これについて、親友は語ってくれた。
自分が何故こうなってしまったのかを。
「するとアイツは『容易いことだ』って言ったんだけどさ」
……親友は、図書館に行ったとき。
黒タイツを着て亀の甲羅のアーマーを背負った、スニーカーを履いた角刈り男性に親切にしたそうだ。
そしたら
「ありがとう。これはお礼だ、受け取って欲しい」
どんな願いも叶う7つの珠だ。
そう言われながら。
ビー玉みたいな珠で、中に星のような模様がある。
……アレか?
そう思ったけど、本気にはしなかった。
けれど……
リスクが無いなら、やらない理由はない。
なので、親友は、誰も来ないこの水門にやって来て。
ビー玉7つを前にして、あの呪文を言ったらしい。
すると
だいぶサイズは小さいけれど、アレが出た。
そいつは言ったらしい。
どんな願いも3つ叶えてやると
その話を聞いて俺は
「……え? アイツが出たの?」
親友は頷いた。
マジか……
驚く俺に、親友は続けた。
「で、こうなったんだ……」
……なんで?
その後語られたこと。
それはとても酷い話だった。
俺は目の前のコイツを睨みつける。
……コイツは、手を抜いて願いを叶えるんだ。
思いやり……サービスをしないんだよ。
『……どうした……? 最後の願いだ。さぁ早く……』
……考えてみればおかしいんだよな。
親友がこいつに願い事をしたのは日本語らしいのに。
それで通ってしまったんだから。
本来ならそれは駄目なはずなのに。
いい加減なんだよ、コイツは。
手を抜いて願いを叶える。
それはどういうことか?
それは……
永遠の命を願った親友は
即座に全身の細胞を癌化させられた。
癌細胞はテロメアの制限が無く、不滅だからだ。
その上で、全身癌化しても死なないという特性を得た。
……ようはこいつは、細胞の寿命を永久にするという作業を嫌がり、安易に癌化させて対応したのだ。
確かに全身癌化しても死なないなら、永遠の命が実現するのかもしれない。
けれど、凄まじい痛みがあったらしい。
だろうね……。
癌の痛みって、死を選ぶくらいだって聞いてるし。
あまりに苦しいので親友は
「永遠の命は要らない! 元に戻してくれ!」
そう言ったんだけど、今度は……
おそらく中途半端に元に戻した。
こいつにとってみれば、細胞の癌化なんて実は日常的に起きることだから、ちょっとくらい残してもいいだろうと全部は元に戻さなかったんだ。
親友は最初の願いの叶えられ方で、コイツに対する信頼性がゼロになってしまったので。
2つ目の願いが叶った時点で、こいつの封印を決めた。
最初は「この世から消えろ」と願おうと思ったらしいけど、それの手を抜かれてしまった場合、何が起きるか分からないし。
そもそも、手を抜くのは誠実な行為では無いので、コイツはそういう願いは叶えないかもしれない。
じゃあどうするか?
それを親友はずっと考えていた。
自分が末期癌になってしまっても。
で、俺に託したんだ。
……俺は言ったよ。
親友に託された3つめの願い事を。
「これから願いを叶えるときは、その叶え方を全て説明して許可を取ってからにしろ」
……すると。
コイツは、震えはじめた。
『……我の仕事が気に入らんと言うのか?』
……どうやら、気に障ったらしい。
俺は頷く。
『……何故だ?』
だから、俺は言ってやったよ。
「……仕事ってもんはな……相手の笑顔を想像しながらやるもんなんだよ!」
それが無い仕事なんかクソなんだよ!
それを良く考えろ!
【三題噺】龍の珠 XX @yamakawauminosuke
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