愛猫は箱NG

卯野ましろ

愛猫は箱NG

「かわいい~」


 今、私は「箱の中に入っている猫」の写真や動画を見ている。狭い箱に入る子も、自分の体にピッタリな箱に入る子も、大きめな箱に入る子もかわいい。


「……うーん……」


 うちの子は、どうだろう。

 お昼寝中の愛猫を見ながら考える。


「……やってみるか」


 そして数時間後、

 

「フーッ」


 やっぱりダメか……。

 もう起きている愛猫に、空き箱を近付けてみた。すると彼女は、一気に機嫌が悪くなった。


「シャーッ!」

「ごめんね、もうしないから!」


 すぐに私は愛猫に謝り、怒っている(姿もかわいい)彼女の目の前にある箱をパッと取り上げた。私が最も愛している猫が箱に入った姿を見てみたかった。けれど結局この子は、箱NGだった。その理由は、もう知っている。

 私たちが道端で出会った日、愛猫はダンボール箱に入っていた。そう、この子は捨て猫だったのだ。独りぼっちで淋しかった、あのときを思い出すのかもしれない。

 これまで私は愛猫の前に箱を出すことを、何となく避けていた。彼女に箱を近付けたのは、今回が初めてだ。でも私は、もう二度とやらない。

 本当に、ごめんね。


「ニャー……」


 自責の念に駆られている私に、愛猫が寄ってきた。心なしか、彼女はオロオロしている。自分のせいで、ご主人が暗くなってしまったとでも思ってくれているのだろうか。

 ……かわいい。

 思わず笑みがこぼれた。


「おいで」

「……!」


 まん丸きゅるるんおめめで、私を見つめる愛猫。一旦ストップすると、


「ニャア~」


 嬉しそうにダッシュして、座っている私の膝の上に来た。


「もうっ! ホントかわいいっ!」


 モフモフで柔らかくて、実は長く伸びる体を抱っこした。優しくだけど、しっかりと。

 大丈夫。

 あなたは、もう独りぼっちじゃないんだよ。

 ずっとずっと私は、あなたの側にいるよ。


「……大好きっ!」

「ニャッ!」


 これからも私たちは、一緒に幸せ。




 それから数日後。


「ニャ~♪」

「ふふっ、かわいい」


 愛猫が楽しそうに、オシャレな紙袋に入ったのである。もちろん私はスマホで撮影し、それを何度も見返した。そして私がスマホばかり相手にしていると、やはり彼女は嫉妬した。だけど、すぐに私がモフッて仲直り。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

愛猫は箱NG 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ