箱の中

@mia

第1話

 明日は久しぶりに予定のない休日なので、積んである本を読もうと思っていた。

 しかし祖父からの電話で予定が変更になった。祖父の友人が面白いものを見せてくれるというので、その友人宅に行くことになった。一人暮らしの僕を両親よりも気にかけてくれているので祖父の誘いは断りづらい。

 翌日二人で友人宅へ行った。

 挨拶も早々に部屋に案内されて細長い木箱を見せられた。うっすらと汚れて古さを感じるがただの木の箱だ。

 彼は僕たちに背を向けて箱の中身を出して壁に掛ける。

 水墨山水画の掛け軸だった。山があり川が流れ所々に木が生え鳥が飛んでる。

 興味もないし面白くもなかった。


「見せたいのはこちらなんですよ」


 彼は箱の蓋を見せた。蓋の内側には雲があり鳥が飛んでいる絵が墨で描いてあった。

 箱の外ではなく内側に墨で絵が描かれていた。

 箱の底は川が流れ魚が泳ぐ絵があった。

 内側の長い方の一辺には囲炉裏を囲む家族、畑を耕している家族、野菜を収穫している家族、収穫のお祭り? が描かれていた。

 その隣の短い一辺には背中に野菜を背負った男がいた。

 反対側の長い方の一辺の内側には男が野菜を売りに行った市と思われる絵がある。賑やかで野菜や魚、なんかの道具を売っている人たちと、それを買おうとする人たちが生き生きと描かれていた。短い一辺に市から帰る男。

 僕はその箱が欲しくなっていた。

 何度もお願いすると箱と掛け軸を譲ってもらえることになったが、条件がついた。

 掛け軸を出したままにしないということだった。

 

 アパートに帰ると掛け軸を出し箱の中の絵を眺める。見れば見るほど惹かれる。   

 約束通りに掛け軸をしまっていたが、ある日見たまま寝落ちてしまい 掛け軸をしまい忘れた。

 翌朝はそのまま会社へ行き、帰宅後も持ち帰りの仕事で掛け軸のことを忘れていた。

 数日後仕事が落ち着いてから箱の中の絵を見ると、川の水が枯れ魚が死んでいた。畑もわずかな収穫だった。

 描かれた人たちが僕を睨んでいた。

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