日本政府
「ふぅむ……」
攻略組の危険。
それは日本政府にとって息の詰まるような恐怖を与え、それを助けたナナシちゃんを名乗る配信者の存在は大きな驚愕を与えた。
「あれは、影入くんなのか?」
ナナシちゃんを見た日本政府関係者。
それが真っ先に思ったのは死去してしまった世界最強の存在であった彼。
そして、それは日本国の総理であったも同じであった。
「いえ、あの子は女の子ではないので違うでしょう。私は一緒にお風呂も入ったので」
総理の言葉に対して、その秘書官がちょっと危ない発言と共にその疑惑を否定する。
「いや、は?風呂……いや、聞かなかったことにしよう。そ、それ……うーん。だが、だ。あのレベルの人材が二人もいたというのか……?」
「私としては光武に観音菩薩。それの能力を持ちながらさらに自然を支配するような能力を持っていることの方が信じられません。あれで、未だ隠している手札があるなど」
「だが、境遇までほとんど同じなのだぞ?」
「だからこそ、じゃないでしょうか。行き場のない子供たちがわずかな可能性にかけてダンジョンに赴き、たまたま生き残った者があの域に至る……そう愚行しますが」
「……だとしたら、何も言えないな。私たちの失策がきしくも人類の希望になるとは」
「……失策とは、必ずしも言えませんよ」
「どう考えても失策だろうよ」
ダンジョン。
それは多くの実りを与えてくれるが、それと共に非常に危険なものでもある。
ダンジョンより魔物が溢れ出てきた大事件、ダンジョンスタンピードが日本国にもたらした影響はあまりにも大きかった。
未だダンジョンスタンピードによって破壊された町を完全に復興出来ていないばかりか、一時的に政府機能がうまく働かなくなり、治安が最低レベルにまで下がってしまった。
何とか戻しつつはあるものの、それでも完全ではない。
復興されていないがれきの山にはスラムが形成され、そこにはダンジョンスタンピードで生活の基盤を失ったものが住まい、そこでは毎日のように出生届を出されていない子供が生まれては亡くなっている。
「……世の中何があるかわからぬな」
総理は深々とため息を吐く。
「だが、此度は間違えぬ。ナナシちゃんの配信はしっかりとログも残っているのだろう?」
「はい」
「これよりすべてを閲覧する。影入くんの時のような失態は侵さぬ。結局、まともに会話してくれなかった彼のことを我らはほとんど知らずじまいであったからな……あの子が、失意のまま死んでいったなど。我らが生涯の恥なのだ」
そして、総理は真面目腐った表情でナナシちゃんの配信を見始めるのだった。
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