病気

「むにゃむにゃ……」


 いつものように桃葉と同じベッドに入って一晩を過ごした、前世の習慣のまま朝五時に起きた僕は彼女を起こさないように細心の注意を図りながらベッドから這い出る。


「んんぅ……」


 そして、そのまま僕は寝ぼけまなこをこすりながら洗面所の方にやってきて顔を洗っていく。


「よし、と」


 顔を洗えばもうバッチリ。

 意識はこれ以上ないほどの大覚醒である。


「さて、と」


 基本的には己の生活を桃葉へと頼り切りになってしまっている僕だが、それでも何もしないのは非常にまずい。

 本当に些細なことでもしなければならない。

 そんな一心で任せてもらえた洗濯物。

 それを今日もこなすべく僕は己の視線を洗濯機の方に向ける。


「服が傷まないように……」


 洗うのは自分の服だけではなく桃葉の服も一緒である。

 僕は服が傷まないように細心の注意を払いながら洗濯物を扱っていく。

 服をネットに入れたり……なんかやることが多くて結構大変なのだ。洗濯物。


「よし」


 洗濯物が終わった後は個人的な時間。

 広いリビングに移動し、毎日のようにやっている誰でも出来る何も使わない簡単基礎トレーニングを行っていく。

 

「おわーり」

 

 二時間ほどでそれを終えた僕はタオルで自分の汗をぬぐい、その次に寝ている桃葉のベッドに向かっていく。

 朝、彼女を起こしてあげるのは僕の役目である。


「も、桃葉ぁー、お、起きているかな?」


 寝室の電気をつけてベッドの元にやってきた僕はそのまま彼女の体をさする。


「……桃葉?」


 そして、ここに来てようやく気付く。

 彼女の頬が赤く染まり、息が荒いことに。


「だ、大丈夫……?具合悪いの?」


 どれだけ僕があんぽんたんでもさすがにわかる。

 今、桃葉の具合が頗るよくないということに。


「ちょっとだけ体調を崩しちゃったみたい……」


「えっ!?大丈夫なの!?」


「私も冒険者。そんなにつらいわけじゃないわ。でも学校には行けなそう……ごほっ、ごほっ」


「う、うん……!無理はするべきじゃないよ!」


「……でも、そうなったら一人で学校に行くこと、……に、なるよ?咲良ちゃんが」


「はっ!?」


 僕は桃葉の言葉を受けて、ようやく自分の危機を理解する。


「い、いや!でも」


 間違いない危機だ。でも、でもだ。


「だ、大丈夫……僕だって成長している!一人で学校生活だって遅れるはずだから!」


「……そっかぁ」


「う、うん!」


「なら、一人で頑張ってねぇ?」


「うん!任せて!ぼ、僕はしっかりと桃葉なしで学校生活を送って見せるから!」


 僕は桃葉の言葉へと力強く返すのだった。

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