その頃

 有馬咲良こと影入秋斗。

 彼が死んだ……その事実は大きな現実となって日本政府に重くのしかかっていた。


「……まさか、彼が死んでしまうとは」


 人類未踏地域である冥層。

 そこを単騎で駆け抜ける他の冒険者とは一線を画す実力を持っている影入秋斗の存在を日本政府が把握していないわけがなかった。


「……もう少し、我々の方で接触してサポートするべきだったでしょうか?」


「……どうだろうな。あの設備不良は間違いなく我々の責任であろう。腹を切って詫びるべき。というより俺はもう任期を終えれば腹を切るつもりだ。だが、その他。それ以外のサポートに関してはいまだどうすればよいかわからぬ。彼は意思表示をしてこなかったし、初手で必要以上の干渉はしてくるな、と言われているからな」


「なぜか自分に自信がなかったですしね」


「そうだ」


 影入秋斗が死んだ。

 その重すぎる事実を前に頭を抱えることしかできない日本政府で、総理とその秘書の二人が共に頭を抱えていた。

 最高のセキュリティーを施した首相官邸の執務室だ。

 この二人の会話が外部に漏れることはないだろう。


「ところで、われらが日本のトップチームの状況はどうなっている?」


 そんな中で、総理が違う話題も降る。


「……最悪です。一方的に彼を神として慕っていた聖女の状態が芳しくありません。その他の皆さんはショックを受けつつも奮起しておりますが。それでも、聖女の不在は致命的な問題になるでしょうね」


「……そうかぁ。だが、あの子の心酔ぶりは少し心配になるほどであったからな。こうもなるか……回復はいつ頃になるか。悩みの種が尽きないな。……それで、そうだな。諸国家の反応はどうなっている?」


「絶望の一言ですね。彼に関してはもう強すぎて国家間のパワーバランスにもはや影響を与えていませんでしたので。純粋な悲しみの声であふれていますよ。あまりにも偉大が過ぎました」


「であろうな」


 影入秋斗は日本だけでなく、世界でもひそかに暗躍して活躍し続けていた。

 その功労者がなくなったともなれば日本だけではなく世界中での混乱になるだろう。


「……世界の命運はどうなるのでしょう」


「もとより、たった一人の少年に押し付けるような事柄ではないのだがな……どうにか、彼の遺体だけでも回収してあげたい。だが、さすがに無理だよな」


「……あの階層は誰でも無理ですね」


「世界がどうなることやら」


 日本政府は、本当にどうしようもない現実に頭を抱えることしかできなかった。

 

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