世界最強の底辺ダンジョン配信者、TS転生した後に配信した結果あまりの強さと可愛さに大バズりしてしまう

リヒト

第一章 陰キャTS配信者爆誕!

TS転生

 天も、底も見えずに対岸の壁も見えない。

 そんなただただ広く、空気中へと僅かに漂う微細な光を放つ小さな存在の他に何の光源もないうす暗い場所。


「……クソったれ」


 そんなところで一人の少年が血だらけとなった足を抑えながら壁に片手と片足で張り付いていた。


「……設備不良にも程があるだろ。なんて靴が爆発するのだよっ!!!」

 

 壁に張り付いたまま毒づく少年……そんな彼の元へと。


「ガァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 一体のドラゴンが大きな咆哮を上げながら迫ってくる。


「ちっ」

 

 黒塗りの鱗を輝かせ、紫がかった翼を広げる威圧感たっぷりな巨大な竜が近づいてくるのを受け、少年は舌打ちを一つ漏らした後、その場を蹴ってドラゴンから離れる。


「黒天」


 そして、そのまま少年は片手を握り……解放。

 少年の片手からは黒い一筋の光が漏れ出してドラゴンへと投射。


「ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 黒き光は確実にドラゴンの体を切り裂いていく。

 その鱗を貫通し、肉を燃やし、骨を断つ。


「ガァッ!!!」


 そのような最中であってもドラゴンもやられっぱなしではない。

 ドラゴンは大きく口を開いて万物を焼き焦がす黒き炎を放出する。


「我が身を守れ」


 その黒き炎を少年は巨大な光の盾を展開することで完全にシャットアウト。

 すべての威力を防いで見せる。


「後光よ」


 次は少年の番。

 ドラゴンが口を閉じると共に少年の後ろに一つの観音菩薩が現れる。


「千式観音」


 少年が観音菩薩の方に魔力を捧げると共にそれが答え、大量の黄金の手を何もないところより出現させてそのままドラゴンを殴り続ける。


「ガァァァァァァァァァァアアアア」


 観音菩薩より千の拳を振るわれ続けるドラゴンは大きな悲鳴を上げてその身を傷つけていく。


「黒天」


 そんな最中であっても少年は攻め手を緩めるようなことは一切せず、その手より黒い光を噴射してドラゴンを容赦なく攻め立てていく。

 黒き光は確実にドラゴンの身を切り裂き続けている。


「……ァァァァァァァァアアアアアアアアアア」


 圧倒的。

 その背後に観音菩薩を浮かべし少年はその圧倒的な力で強大なドラゴンを殴殺しかけていた。


「あぐっ!?」


 そんな途中。

 彼が背中に背負っていた一つの機材が急に爆発する。


「……ッ!?」


 急な爆発に何の反応も取れなかった少年は態勢を大きく崩して何もない宙の中で一人、無様な姿を晒す。


「ガァァァァァァァアアアアアアアっ!」


 そして、その隙をドラゴンは決して見逃さない。

 ボロボロの体を動かしてその腕を伸ばし、少年の腹を己の手が爪で貫いてみせる。


「うぐっ!?」


 少年は何とか、ドラゴンの手に反応して掴んで動きを止めた頃にはもう、彼の腹には大きな穴が開いていた。

 何とかドラゴンの巨大な手で全身をゴミのように潰されることは避けた……だが、それでも致命傷を負ったことには変わりない。


「ぐふっ……うぐっ、ァァァァァァアアアアッ!!!」


 腹に大きな穴が開き、今にも泣きだしたくなるような激痛が己の身を包み込むような中。

 少年は力を振り絞って背後の観音菩薩へと大量の魔力を捧げてみせる。


「施餓鬼会」


 その少年の魔力に答えたのは観音菩薩……とは、別の何か。

 観音菩薩が彼の背後から消えると共に黒き空間よりも果て無く大きく黒き者がその場に現れ、その口を開く。


「……ガァっ!?」


 果て無く大きく黒き者。

 その口より伸びる数多き黒の手はドラゴンの体を掴んでその身を引きちぎった後に、次々と自分のあるべき口の中へと戻っていく。


「……ァァァァアアアアアアアアアアッ!?」


 己の体を奪い、暴利を貪るその黒き者。

 だが、ここに至るまでに大きな傷を幾重も負っていたドラゴンは黒き者による手を払いのけることが出来ずにそのままどんどんと体を奪われていく。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 そして、ドラゴンの身が余すことなく口の中へと消えていくと共に、この場にいた黒き者もその姿を忽然と消す。


「……ぁぁ」


 ドラゴンも、黒き者もいなくなり。

 ただ一人の残された少年は貫かれた腹の痛みを前に己の身体へと力を入れることが出来ずにそのまま無様に落ちていく、当初は見えなかった床にまで。


「あぐっ」


 遥か高所から床より落ちて地面を転がった少年は悲鳴を上げる。

 そんな少年の腹からは多くの血が流れている。


「はぁ……はぁ……はぁ……これは、まっず、ほんとうにぃ」


 血の止まらない腹を抑えながら呻き語を上げる少年。

 そんな少年の元へと宙に浮かんで被写体を追いかけて続ける一つの球体型のカメラが近づいてきて、その死にかけの様子をズームしながらしっかりと映す。


『コメント』

 ・ナニコレ。何かのCG?死の偽装は流石にあり得ない。もう二度と来ないわ。

 

 そんな中、突然カメラの上部が輝きだしてホログラムを表示させる。

 そのホログラムに表示されているのは、カメラを通して少年の死に様を見ているこの世界の誰かのコメントであった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 その一つのコメントを見た少年は死にそうな体であっても大きな悲鳴を上げる。


「ごっぷっ……なん、だよぉ。ここまで来ても……僕は、誰にも死に様すら見られず、誰も隣に立ってもらえず、唯一人で死んでいくのか。何者にもなれずに死んでいくのか」

 

 少年は口から血を逆流させながら、心の底からの怨嗟と後悔を口にしていく。


「……ぁあ、誰か、僕を」


 無様に床に倒れる少年はその手を伸ばして───その手は何も掴むことなく地面へと落ちるのであった。



 ……

 

 …………


 ……………………


 だがしかし。

 運命とは時に残酷で摩訶不思議であった。


「……なっ、なっ」


 暗い暗い場所の中で唯一人、命を失ったはずの少年はその姿を変えてその魂へと新たなる生命を築いていた。


「なぁ、んじゃこれぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええっ!」

 

 道行く人の喧騒に道路を走る車の音が鳴り響く天より雨が降り注ぐ夜において。

 少年、もとい少女は水たまりへと映っている可憐な美少女の姿に驚きの声を上げるのだった。

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