空に想う

篠塚麒麟

空に想う

 その座布団は大好きなおじいちゃんが使っていたもの。

 おじいちゃんはいつも縁側でその座布団に座って空を眺めていた。

 青空の晴れる日は、

「天気が良くて気持ちいい」

 雨の降る日は、

「雨音が心地いい」

 そう言っていた。

 子ども心になんて都合のいい人なんだろう、そう思っていたものだ。

 そんなおじいちゃんがいわゆる『お空の人』になってしまった時、中学生の私が唯一形見としてもらったのがこの座布団だった。

 おじいちゃんがしていたように、縁側に座布団を敷く。

 そしてその座布団に座る……のはなんだか憚られて、私はその隣に座った。

 空を見上げる。

 曇天。

 こんな時、おじいちゃんだったらなんと言うだろうか。

「眩しくもなく、静かで……」

 ポロポロと涙が頬を伝った。

「静かすぎるよぉ。寂しいよぉ、おじいちゃん……っ」

 私は気付いてしまった。おじいちゃんが私にとっての唯一の拠り所だったのだと。

 誰もいなくなった家に泣き声だけが響く。

 私は泣いた。

 誰もいないから。

 もう誰も私を見てはいないから。

 叫ぶように泣いた。

 雲間から覗く陽の光がその涙を輝かせていることに、気付くこともなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空に想う 篠塚麒麟 @No_24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る