第11話 天無の「天」・今日何をします?

「では、書店まで歩きましょう。10分で着きます。」


曇りで多少の湿気が混じる中、俺達は書店まで歩いた。車通りの多い歩道橋。その道中、健太のことを聞いてみた。

「なあ、健太って資格とか賞持ってるの?」

「はい。9個資格を取得してます。」おお。やっぱり。

「おー!9個!!」すかさず健太は続ける。

「また、高校の中距離走、1000m走では全国6位の入賞と小学生の時に絵のコンクールで全国3位の入賞です。」「すげーーー!」

凄すぎる。昔から凡人とは異なる多彩さだ。一体どうやって。一つずつ聞いてみる。

「資格はどんなの取得したの?」

「行政書士、社会保険労務士、税理士、漢字検定1級・準1級、宅健士、日商簿記1級・2級、販売士1級ですかね。残念ながら公認心理士と臨床心理士は大学で履修すべき科目を有してないと受けられません。無論、他にも一部取得したいのがありますが、同じく学歴や職歴が対象なため受けられず。医師免許もその一つです。」

「そうなのか。フリーター故だな。でも、社労士や税理士持っているのはすげーよ。それだけで安定した職に就いて生活出来るんだし。」

「フッ。ですね。」

「絵のコンクールと1000m走はどう入賞したの?」

「資格取得も同様でしたが、……継続です。」「継続…。」

「と言っても他人からすれば常軌を逸した継続ですが。もはや、生活の一部。いや、お経ですね。」「お経。」

「絵は母が趣味で、それを小さい頃から僕は目の当たりにしてきたので、小学2年に真似たのが始まりです。毎日学校帰り、自宅で最低でも4時間は紙に鉛筆を動かしてあらゆる物を模写してました。林檎、道路、マンション、車等と。日々観察を怠らず。結果的に小学6年で全国コンクールに3位で入賞しました。」俺は普通に圧巻していた。

「じゃあ、その時から努力を惜しまない癖が定着したんだな。」

「ええ。それから中学に進学しました。小学生の時は絵に没頭するあまり運動不足が生じてました。ですので中学から陸上部に所属して最初は5㎞や10㎞の長距離専門でした。ですが、結果が出ず過度な練習を続けてオーバーワークになり、3年の最後の大会は欠場しました。両足首の疲労骨折と判明しました。その時は一番ショックでした。大会に出場できないことに泣き寝入りしたのをよく覚えています。」

「健太にもそんな時があったんだ。」

「はい。その後私立高校に進学し、陸上部は継続しましたが中距離に変更しました。その学校は陸上部では強豪校で、練習方法や仲間達が僕に思いの外合っていたのか、みるみる結果が出て3年最後の大会は全国3位入賞できました。」

「へー。やっぱり努力していて更に環境も良かったのが幸運だったんだなぁ。」

健太は突如立ち止まり、無表情のまま俺と目を合わせる。

「努力はしました。ですが、環境は関係なかったです。同じ部内のほとんどは県内止まりでその内全国に行けた者は7人でした。確かに強豪でしたが、上には上がいてそう簡単に踏み越えれることではありません。」何たが責められたような…。

「わ、悪い。そんなつもりは。気に障ったならごめん!」健太はフッと笑い目線を下に向ける。

「別に責めていませんよ。単に昔を振り返っただけです。それに、僕は"努力"をしてきました。ですが、違います。


"やるか、やらないか"。


ただ我武者らに試行錯誤しながらひたすら練習していただけです。『努力が実らない』と言う人は、単にやっていない、若しくは何も考えずにやっているか、に限ります。つまり、"頭を使って量をこなしているか"。です。案外難しいですよ。

また、実行に移すには挑戦です。

"昨日は消化しました。今日何をします?"

さっ、書店が見えて来ましたよ。何冊でも良いので気になった内容は購入しましょう。」

「あ、ああ。そうだな。やるか、やらないか、だな。今日挑戦するんや!さっ、買うぞー!」

曇り空から明るい光のカーテンが少しずつ広がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る