第二章 芽生え
第10話 不完璧と次題
俺は、何とか嵐に呑み込まれながらの物件依頼をこなし、多少の残業を済ませ。ついに、約束された金曜日が訪れた。
朝、いつもの地下鉄から階段を登る。出入り口に予定時刻通りに到着する。因みに今回は運動服の指定がないから多分私服で来たから大丈夫なような…。まあ、ここまで来たら仕方ないか。
おやっ?それにしても見当たらないな。腕時計で時間を確認してみる。
「10時になったんだけどなぁ。」
出入り口前の周辺を見渡す。歩道に交差点やマンション等一つ一つ確認するが見当たらない。
5分程して、ほどなく右の路地から走ってくる者が近づいてきた。白のパーカーに黒い細身のズボン。あっ、あれだ。相変わらず圧巻なペースだ。健太も俺が見えたのか、徐々にペースを落とし歩きながら息を少し切らして俺の元まで近寄る。
「申し訳ございません。寝坊しました。」
⁈。「ウェ!?寝坊!!?」「ハイ。」はえーー。「何か珍しいなぁ。以前は健太が予定時刻より早めに待っていたから時間に厳しいのかと。というか、あまりに優秀だから遅刻とは無縁かと…。あと正直に申告したのも。」健太は右手を上げ、左手を下げ、両の人差し指を立てて述べた。
「人は誰しも完璧ではない。例え優秀な天才だろうと。だからこそ、失敗して"学ぶ"ことが面白い。」
健太はそのまま続ける。
「自分も他人も責める必要はありません。責めて良いのは、犯罪や恐喝・暴力といった不幸な人達だけです。」
「フッ。プッハハっ。」何だか笑いが込み上げた。「だなっ。健太。何かキッチリ時間通りに来た自分が馬鹿馬鹿しいわ。仕事でもない休日なのに。」健太は汗だくで無表情のまま。
「ですね。にしても陽介さんは寝坊して遅刻して来た僕を怒らないんですね。」
「うん、意外ではあったけど。別に俺も時間に対しては緩くしたい派だし。」
「なるほど。器は広そうですね。」
「うーむ、自覚はないけど多分そうかもしれない。あんまり怒ったことはなかったしなぁ。あっ、暑そうだから先にコンビニ寄る?」
「いいですよ。お気遣いありがとうございます。あと、初めて陽介さんから提案されましたね。」
ん?そうだっけ?片目を下げ口を尖らす。
「そうだっけ?最初は変な奴だと思ったけど、今は天才くんかな。それに、ある程度の思いやりや気遣いはある訳だし。」
「…そうですか。では、まずはコンビニに寄りますか。」
「うん。」
曇り空の中、俺達はコンビニに寄り、俺と健太は冷たい250mlの水を一本購入した。コンビニを後にして、近くの広い公園まで歩きベンチに座り込む。曇り空なのか木漏れ日はない。
「そういえば今日は何をするの?前は美術館だったけど。」
「そうですね。今回は、"勉強"をします。」
顔を地面から健太へ向ける。「勉強?どっか行くの?社会科見学的な?」健太は首をゆっくり振る。
「今回は個人の勉強です。段取りを言います。まずは、書店に行きます。書店に行ったら気になる本を買います。」「ほうほう。」
「ただし、買って良いのは、小説と漫画以外です。つまり、資格や啓発等の学術的分野です。例外として、テキストの表現方法が漫画で用いられてるのはOKです。初歩的で理解しやすいので歴史やビジネス系によく用いられてます。」
「なるほどー。で、選んで買った本を図書館で読む、いや、勉強するの?」
「はい。図書館が閉鎖する19時まで勉強します。」
「19時まで!こりゃ大変だ。」
「フッ。安心して下さい。無論、休憩も取り入れますし、飽きたら館内にある他の学術本を読めば良いです。あと、ペンとノートも購入して構いません。メモや過去問の解答で使えます。」
「はえー。長い分自由に勉強タイムかー。それも冊数も種類も限定せず。」
「はい。今回は学ぶ楽しさ、それを根底から見直してみましょう。また、継続のコツも後程教えます。」健太はサッと音を立てずに立ち上がり俺を見て無表情のまま話を続ける。
「では、書店まで歩きましょう。10分で着きます。」
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