第8話 天無の「無」??

「人生は、物事の豊かさで決まる。それを決めるのは純粋な好奇心なのである。」


グッズの買い出しを済ませて俺達は美術館を去った。既に空はオレンジ色に染められてきた。出入り口前にて。

「陽介さん。今日はひとまずお疲れ様でした。」無表情のまま俺の顔を見ながら答えた。「おう。お疲れ様。」健太も軽く礼をして話を続ける。「次回はいつ頃にしますか?まだまだ僕の趣味は沢山あります。強制ではないですので、自由に来たい時で構いません。」んー。「来週の金土休みだから、金曜日どうかな?」

……。無言。

「…わかりました。では、金曜日、いつもの地下出入り口前。時間は午前10時。宜しいですね。」「ああ。」健太は左の袖を捲って左腕を出し、ランニング用の腕時計を見る。「丁度いいですね。僕はこれからバイトあるので失礼します。」そうだった。健太はフリーターだもんな。家賃とかお金を切り詰めるの大変なのでは?今聞いてみるか。

「家賃は月1万3千のオンボロアパートです。」安っ!てか、すかさず読まれた。健太は続ける。「バイトは中華料理店の厨房です。」おー!料理得意なんだ!「週4日夜を主に働いてます。ただ、それだけではやはり生活は困難を極めます。ですので、バイト以外に収益を得てます。無論、税金の確定申告は毎年自らしています。」キッチリしているなー。俺だったら無理だ。1年間の給与明細を保存して計算して税務署に寄らなきゃいけない。らしい。

「ところでバイト以外で、何をして稼いでるの?もしかして裏の活動とか?」

当然健太は裏のことをしても可笑しくない。そもそも読心術は超能力に等しい。ましてや、ここまで優秀さを兼ね備えているのだ。まだまだ彼は美術館の展示鑑賞や料理のバイト以外に多彩そうだし。

健太はフッと頬を引き攣って笑う。

「裏の活動ですか。確かに、そう捉えられても可笑しくないです。ランニングの際、僕か言っていたように、長年の親友ですら僕と距離を置いて離れた位です。何か仕出かしたのか、そう疑問に思わないのが変ですし。」

………。


互いに目を合わせて沈黙が風と共に流れる。木々が鮮やかに音を鳴らす。

健太が口を開く。


「実は、月に2度、精神科医のお手伝いをしています。」

へっ?…?俺の顔は片眉が上がり切る程、拍子抜けしていた。

「何か、拍子抜けした…。」 

健太は無表情のまま答える。

「まぁ、普通に考えて読心はメンタルを取り扱う仕事が最適です。」

「ですよねーー。」

「フッ。妥当過ぎて拍子抜けするのは間違いないですしね。因みに精神科医のお手伝いは、完全交代で行っています。」

「完全交代?」「ええ。」

「要は月に2度、その日だけは完全に僕がクリニックを総括してもらっています。」

「ええっ!?じゃあその日だけ、クリニックの予定表や経営、カウンセリング等全て任せてもらっているということ?」

健太はフッと再び笑う。

「ご名答です。ですが、医師免許は持っていません。」

「持ってない?!!??!ちょっ、!法律違反じゃん!!??????」

「なので、当クリニックの先生が特別に極秘で承諾してくれました。実際、研修期間では『完璧に仕事をこなしていた』と褒めてくれました。」

ええ〜????!。

ある意味裏の活動じゃん。



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