未来の自分へ

西影

高校を卒業してすぐの俺が言えること

 先に断っておくことが、これは物語ではない。高校を卒業してすぐに書いた日記のようなものだ。なので今から綴られていくものはエンタメ要素もなければ、ドラマだってない。


 ここで語られるのは俺のちょっとした思い出話と思想について。多少改稿はするがこれまでの文章のように語り口調で進めていく。それでも良いという方だけ先に進んでもらいたい。ただし、未来の俺だけはこの先も必ず読むように。




 さて、まずはどこから話そうか。少し悩んだが、とりあえず俺自身がどういう人間か話していく。


 一言で言うならば負けず嫌い。それに尽きるだろう。何をやるにしても勝ちたくて、小学生の頃は自分より弱い者とばかり競いあっていたのを覚えている。例えるなら将棋、器械体操、勉強、ゲームなどなど。強者との戦いは避けていた。


 こうやって書いていると思い出が蘇ってきた。本当に強者との勝負だけは露骨に避けていたな。懐かしい。


 そんな性格の根本は今も変わらず、特に対戦ゲームなどでは本気で打ち込んできた。クラッシュロワイヤル、シャドウバース、ポケモンユナイトなど。主に一つか二つに絞りこんで、毎日自分のお手本となる人の動画を見ていた。


 ゲームの腕に自信はあったが、あくまで一般人相手のみ。ある程度本気でゲームに取り組んでいる人(ランカーの人たち)には敵わないと思っているので、『限りなく正解に近い』動きがあるゲーム――主にカードゲーム系――を好んでいた。ゲームを始めた当初はそう思っていなかったが、今にして思えばそう感じる。


 なのでFPSや格ゲーなど突出したプレイヤースキルで盤面をひっくり返せるゲームは苦手意識があった。それにこれらのゲームはプレイヤースキルを磨く必要がある。FPSなら単純にエイム、格ゲーならスマブラの話になるが反転空後やコンボなど。


 これらは知識を身に付けてすぐにできるものじゃない。その後に練習をして習得しなければならなかった。そこに至るまでの練習時間というものが嫌いだったからこそ、カードゲーム系や戦略系にのめり込んだのだろう。なぜなら、それらのゲームは知識として吸収するだけで強くなれるからだ。


 さて、話を戻すがそんな負けず嫌いの俺は小学生時代、負けると怒ったり、泣いたりと大変だったらしい。中学生に上がってから泣くことは減ったが、ゲームのランクマッチでは怒っていた。


 ……いや、部活動の試合でも怒っていたな。テニス部に所属していた俺は他人のミスについて何も感じなかったが、自分のミスにはとにかく厳しかった。ラケットを自分の足に叩きつけた結果、小指の爪付近が赤黒くなったのをこれを書いていたら思い出してしまった。恥ずかしい記憶だ。


 けれど中学三年以降からはこのような機会が減った気がする。(正確な時間はわからないが、そのぐらいのはずだ)


 理由を探すなら、諦め癖が付いたからかもしれない。いや、付いたというより元からあったものが肥大化したというほうが正しいか。


 小学校と中学校で俺はいじめ? のようなものを受けていた。小学校の方はどちらかというと喧嘩に近いかもしれない。理由は不明だが俺はよくクラスメイトの一人から嫌われていた。そうすると必然的にその人が含まれるグループから避けられたし、俺を独りにするためか、仲の良い友人をグループに入れようとしたり、俺に対して一人が暴力を振ってくることもあった。


 しかしやられっぱなしというわけもなく、暴力こそ振るわなかったが相手の手足を掴んで行動を抑制し、一方的に罵倒した。手を出すなんて頭の悪い奴がすることだ、情けない、何にキレているか言葉で伝えろ、などなど。相手から反論されても悉くを論破していく。そんな態度だったから嫌われていたのかもしれない。


 結局そんな関係は最後まで変わらず小学校を卒業し、中学受験を経て家から一時間以上掛かる私立の中高大一貫校に進学した。今思うとこの時には諦め癖が付いていたかもしれない。高校や大学受験で良いところに受かる気がしなかったし、そもそも元々は国立(親の勧め)を第一志望にしていたのだが、自分では合格できないと感じていたので偏差値を十ほど下げた私立中学を第一志望にした。


 それでも俺は満足していた。レベルを落としたとはいえ、第一志望には受かったからだ。ここには地元にいる頭の悪い連中はいない。変に絡まれることはない。


 そんな俺の思考を嘲笑うかのように、入学後してすぐいじめに遭った。それまで話したことのない生徒になぜか嫌われ、陰口を言われ、クラスからハブられた。入学後のオリエンテーションの時点では目を付けられていた記憶がある。


 その時に感じたことは今でも覚えてる。


 所詮、どこもこんなところか……


 虐められたことによる悲しさなんてなく、ただそう思った。中学なんてそんなものだと割り切った。クラスに居場所がないなら違うところで作ればいいと考えた。昔から『年の割に大人っぽい』と言われていたのは、この諦め癖のせいだろう。


 ただ幸いにも今回のいじめは中学一年の一学期終わりに報告され、担任教師の手によって解決した。今でも虐められた理由を知らない。なんとなく虐めてたらしいという噂は耳にしたが、本当かどうか俺にはわからない。ただ、これらの出来事で今の俺ができたと言っても過言じゃないだろう。


 負けず嫌い×諦め癖


 そのブレンドで生まれたのは『我慢強い自分』だった。中学二年から今もずっとこの考えを貫き通している。


 最低限だけを求めるようになった。自分自身に期待するのが馬鹿らしく感じたから。


 負けても表面上笑うようになった。怒りや悲しみの感情を心の中に仕舞えるようになったから。


 自分より相手を優先するようになった。自分が我慢するだけで全てが解決するのを知ったから。


 大丈夫が口癖になった。それが一番楽に会話を終わらせられることに気づいたから。


 受験では第一志望を自分に合っているレベルに変え、学校の成績は平均レベルを求め、部活動の大会では一回戦突破を目指し、カクヨム甲子園では大賞ではなく奨励賞を夢見て書き続けた。唯一ユナイト甲子園というポケモンユナイトの大会は仲間に恵まれていたので全国一位を目指したが、結果は予選三位で終わってしまった。


 個人的に全ての目標に対して本気で取り組んだつもりだ。それでも実力不足で届かないことの方が多かった。悔しくなかったと言えば嘘になる。けれどすぐに諦められた。当人の実力不足だから仕方ない。そのレベルに至るまで努力し続けなかった自分が悪いんだから。


 自分のせいにすればするだけ、物事が楽な方に進む。諦めることが簡単になる。


 そんな俺でも一つだけ、諦めきれなかったものがあった。


 それが友情だ。もっと詳しく言うなら唯一無二の親友というものに憧れた。


 お互いにお互いを一番だと思っている。そんな友情や愛情を持っている親友や恋人を欲した。自分を認めてくれる人が欲しかった。自己顕示欲というやつだろうか。そんな人間を中高と通して作れなかったことだけが、高校を卒業して残っている後悔だ。


 ぼっちだったわけではない。確かにいじめでスタートダッシュは遅れたが人並みの友人関係はあったと思う。ただし誰の一番でもない。グループの下っ端、いてもいなくてもいい存在。それが俺なんだと感じた。


 もっと人に絡みに行けばよかった、相手の好きなものに触れればよかった。


 そのような仲の良い友人を作る方法を知っていたのにどうして俺は実行しなかったのか。そこには多分、『自分自身』を見てほしいという欲があったからだろう。取り繕っていない自分しか見せていないのに、馬鹿な考えだなと思ってしまうが。


 そもそも俺が友達を信じていないのだ。こうすれば嫌われるかもしれない。こんな自分は望まれていない。そう思って表に出さない本当の自分。それを出せるようになった日には、唯一無二の親友が作れる……のかもしれない。


 これが高校を卒業してすぐの俺の考え。高校三年間だけでも結構俺という人間は変わったと思っている。それはきっと、ネットで様々な人と関わるようになったのが大きいだろう。


 俺の普通が普通でないことを知ったし、今の生活が恵まれている方なのだと知った。案外、人生というのは大学に行かなくても楽しくなることを知った。これまでの価値観が変わっていくのを感じた。


 なぁ、今これを読んでいる俺。


 お前は高校生の俺から変わったか?


 人間誰だって成長する。だけど何もしないで成長できるわけじゃない。高校卒業時、担任は『あなたたちには無限の可能性が広がっている』と言っていたが、ひねくれている俺には『努力すれば、あなたたちには無限の可能性が広がっている』という風にしか聞こえなかった。


 実際その通りだと思う。だから、今も生きていて納得していないことがあるなら行動してほしい。


 親友はできたか?


 恋はしたか?


 夢はできたか?


 今も何かを諦めようとしていないか?


 諦めることを悪いことだとは言わない。それでもさ、自分でも気付いてるだろうけど。


 そんな人生、面白くないぞ。


 高校卒業してすぐの俺でも、学生時代の楽しかった記憶がほとんど思い出せないんだ。これを読んでるころには学生時代の記憶がほぼ全ての記憶が消えていたって不思議じゃない。


 だから、忘れられないような面白い思い出を作ってくれ。


 それが高校を卒業してすぐの俺が言えることだ。

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