宝箱ハンター【KAC2024 3回目】
ほのなえ
踏破済みダンジョン入口にて
とある勇者の一行がダンジョンをクリアした。最近発見されたばかりの誰もクリアしたことのないダンジョンを踏破し、貴重なお宝をたくさん持ち帰ってきたらしい。
そんな情報を手に入れた彼――冒険者の一人であるロジャー・B・オックスは、行動を開始する。
(勇者御一行様が、ダンジョン内のモンスターをある程度倒してくれている今がチャンスだ。この期を逃せば、時間が経つにつれて再び多くのモンスターが湧き出てくるだろう。そいつら全員を相手する暇なんてこっちにゃない……さすがのあいつも喰い切れねぇだろうし。さあて、時間との勝負だな)
そう意気込んで、ロジャーは例のダンジョンへと急ぎ足で向かう。
南の岩山にある、噂の勇者一行がクリアしたばかりのダンジョン。その入り口である洞窟の前まで辿り着いたロジャーは、ピタリと足を止める。洞窟の前で、呆然とした様子で立ち尽くす少年を発見したからだ。
「おうボウズ、どうした? このダンジョンに用でもあるのか?」
ロジャーが声をかけると、青い顔をした少年はこちらを振り返り、小さく頷く。
「ほう。じゃあなんでまた、こんな所に用事があるんだ?」
「……勇者の一行がここのダンジョンをクリアしたって話、おじさんも聞いてるよね」
少年は、かすかに震える声で話し出す。
「ああ、昨日から、街はその話題で持ちきりだったな」
「でも……その勇者のパーティーの一員だった、僕の姉さんだけが帰ってこなかったんだ。勇者に問い詰めたら、残念ながらダンジョン内ではぐれたって……」
「へえ。街ではあんな煌びやかな凱旋やってたってのに、そんなことがあったとはね。しっかし、ダンジョンクリアした後にでも探しに行ってくれなかったのかい?」
少年は首を横に振る。
「うん……。それに、姉さんがパーティーの一員だったことも、秘密にしてるんだと思う……。行方不明者の存在なんか明かしたら、勇者の華々しい経歴に傷が着くからって。でも僕がいくら本当のことをみんなに言ったって、そんなことはあり得ない、みんなの尊敬を集めてるあの勇者がそんな人なわけがないって……」
「ふーん、そりゃあ、ひどい話だな」
ロジャーは、洞窟の方をちらちら見ながら答えた。その様子だと、熱心に話を聞いている雰囲気ではなかったが――少年にとっては、彼が自分の話を否定しなかった初めての大人だったので、目を丸くしてロジャーを見る。
「おじさん……信じてくれるの? あの勇者がそんなひどいヤツだってこと」
「んあ? ああ、まあ……な。あの勇者、ただでさえ優等生すぎると思ってたんだよ。だから、実は裏ではそんな部分があった、って方がある意味、現実味があるよな」
「……おじさん、なんだか変わってるね」
「ああ、よく言われる」
ロジャーはそれを誉め言葉と捉えたようで少しふんぞり返る。少年はそれを見てますます変わっているなあと思いつつ、ロジャーの後ろに見えている洞窟の入り口に目をやると、ぽつりと呟く。
「……姉さんは死んでなんかないよ。僕……この洞窟の入り口に立ってたら、なんとなく姉さんの気配を感じるんだ。姉さん、いつも勇者に足でまといだって言われてたみたいで。だから……置いて行かれたんだと思う」
(へえ、この子……何か、他の人には感じられないものを感じられるのか?)
ロジャーは、少し興味を持った様子で少年を見る。
「……ふうん。そういうことなら……わかった。じゃ、俺と一緒にダンジョンに入らないか?」
「え?」
思ってもみなかったロジャーの申し出に、少年は目をぱちくりとさせる。
「ここまで来てみたはいいものの、ボウズの実力じゃあこん中には入れずに困ってたんだろ? そうだな……俺の目的に付き合ってくれるってんなら、多少寄り道して、このダンジョンのどっかにいるお前の姉さんを拾ってやるくらい構わねぇよ。お前、どうやら姉さんの気配がわかるようだからな。そいつを頼りに探せば、ま、なんとか見つけられるんじゃねぇか?」
「……! いいの⁉」
少年の顔がぱあっと明るくなる。
「ああ、その代わり、ちいっとばかり俺の用事にも付き合ってもらうぜ?」
ロジャーはそう言って、にやりと笑う。
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