キャベツと玉ねぎが焼ける匂い

青井 白

日記

節約生活3日目

フライパンに油を少量ひいて、面倒だからと手でちぎったキャベツを炒める。

生のキャベツは青臭く食欲をそそらないけれど、火が通ると食欲をそそる匂いがする。

ジューっと焼ける音と共に焼肉の香りがしてくる。そう、私の中での焼肉の匂いはキャベツが焼ける匂いだったんだ。焼肉とキャベツが結びついたときに衝撃が走った。私の好きなあの匂いは焼ける肉のものじゃなかったのか。

お肉がなくとも焼肉気分を味わえるなんて、なんとも得をした気分だった。だから「私はお得な女」と自分に言い聞かせる。

節約生活4日目

今日はミートソースを作る時に余った玉ねぎを半玉炒める。今回はさすがに包丁を使った。

ジューっと玉ねぎが焼ける匂いが湯気と共に顔を覆ってゆく。

玉ねぎのせいで流れていた涙が止まる頃、またふと気がつく。ハンバーグの匂いがする。

頭の中でハンバーグと玉ねぎが結びつくとまた衝撃が走った。ハンバーグの匂いは玉ねぎが焼ける匂いだったのか。

昨日に引き続きまたもやお得な気分。

節約生活5日目

そろそろ自分にご褒美をあげなくては心が折れてしまいそうだと思い、冷凍保存していた最後の唐揚げをレンジで温めて食べることにした。

ブォンと音を立てるレンジの中で回る唐揚げを見つめて待つ。温まったという合図の音が響く前に、唐揚げのいい匂いがキッチンに広がっていく。

ふいに涙が溢れてきた。唐揚げの匂いだとうわ言みたいに口から言葉が涙と共にこぼれてゆく。

私はあつあつに温まった唐揚げが乗っているお皿をシリコン製の鍋つかみで持ちゆるゆると座り込んだ。

ご飯を食べながら泣いたことはあるが、食べる前からご飯の匂いで泣くことになるとは思わなかった。

白ご飯と、あつあつの唐揚げをお盆に乗せて部屋へ持っていく。

そのちょっと贅沢な日はテレビをつけずにご飯を食べた。味変にと置いていた調味料の出番もなく最後の唐揚げを噛み締めて食べていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キャベツと玉ねぎが焼ける匂い 青井 白 @araiyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ