箱の中身はなんだろな?

大道寺司

第1話

「箱の中身はなんだろな〜、ドンドンパフパフ〜」


 どこにでもあるごく普通の教室に似つかわしくない声が響く。


「どうしたんですか? 先生。頭に沸騰石埋め込んだ方が良いですよ」

「辛辣だねぇ、里佳子君。今流行りの動画配信ってやつさ。僕も少々お小遣いが欲しくてね」

「教師って副業とかできるんですか?」

「この学校ではなんでもアリです!」


 先生は手を叩いて生徒たちを黙らせる。


「はい、じゃあ今日の授業はデスゲームです!」


 困惑する生徒たち。ごく一部だけ先程の発言をダジャレと捉えてクスクス笑う者もいるが、先生はお構いなしにルール説明に入る。


「ルールは簡単! この箱の中身を当てるだけ。外した人にはペナルティを用意してます! ゲームの様子は撮影後、編集して世界にばら撒きます!」


 箱は真っ黒で中身は見えない。左右の側面に腕を突っ込むための穴が開いている。特に中から物音がする感じはしない。


「それじゃあ、最初の挑戦者は挙手!」


 静寂。挙手をする際のごく微少な音すらもない完全なサイレント。


「どうした? いつものように元気よく!」

「普段の授業でも手は挙がりませんよ、先生」

「じゃあ、里佳子君」

「チッ」


 里佳子は渋々席を立ち、箱に両手を突っ込む。


「硬くて......太い棒? っていうかなんかヌルヌルする......」

「分かったら耳打ちで回答してくれたまえ」

「はい」


 里佳子は耳打ちで先生に自身の答えを述べる。


「不正解だ」

「......手を洗ってきてもいいですか?」

「構わない。扉を開けようか」


 里佳子は教室を出ていった。

 先生は扉を閉めて、箱が置かれている教壇に戻る。


「さて、次の挑戦者は......」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 教室の外から里佳子の悲鳴が聞こえてくる。


「おいおい。ペナルティってヤバイやつなんじゃ......」

「先生! 里佳子に何したの!」


 生徒達が動揺する。


「何をそんなに慌ててる。いずれ分かることじゃないか」


 先生が鎮めようとするも中々思うようにいかない。

 しかし、突然挙手をする者が現れた。


「みんな。俺、分かったよ。このゲームは俺が終わらせる」

「おお! 自信満々だね、健太」

「箱の中身を触るまでもない......答えはずばり」

「ずばり?」


 教室全体に緊張が走る。

 里佳子に起きたことはただ事ではないだろう。それでもなお、耳打ちするまでもないと自信満々に回答を放つ。


「ち○ぽ」


 再びサイレント。

 女子はゴキブリを見るような目で健太を睨んでいる。


「え? 正解でしょ? ち○ぽ」

「......間違いだ。健太、君の大学への推薦は取り消しだ」


 ペナルティ。しかし、デスゲームにふさわしいとは思えない。

 だが、健太にとって致命的であることには変わりない。


「な、なんで......卒業式、明日! 進学先、無い! 就職先、無い! あああああああああ! ち○ぽ! ち○ぽぉぉぉ!!!」


 健太は下品な言葉を叫びながら地面にうずくまっている。


「なんです? これ」


 里佳子が健太を指差して先生に尋ねる。


「ペナルティがきつすぎて発狂した、といったところかな?」


 健太が里佳子に気付いて、やや正気を取り戻す。


「え? 生きてる!? 俺もペナルティ無し?」

「何言ってるんだい? 里佳子君は正解したじゃないか」

「は!? 不正解だって......」

「ふっ、正解だと言ったんだ。聞き間違えたのかい?」

「それじゃ、あの悲鳴は?」

「手洗い場に向かう途中でゴキブリがいたので少々驚きました」

「ゴキ......ブリィ......?」


 健太が俯いて動かなくなった。理解が追いつかないのだろう。


「警察だ! そこを動くな!」


 突如、拳銃を持った警察官が教室に入ってくる。


「おやおや。どうしました?」

「教師が生徒を殺したと通報があった。お前が教師だな」

「通報? 誰から?」

「動画配信サイトの視聴者だ」

「ん? ちょっとお待ち......あっ、録画と間違えて配信しちゃってるねぇ」

「手錠を掛けさせてもらう」


 警官は先生に手錠をかけ、箱の中に手を突っ込む。


「念のため、凶器になるものは入っていないか確認させてもらう」


 箱の中から透明な長細い箱が出てきた。


「なんだこれは? 何故ヌルヌルしている?」

「箱さ。箱の中に箱が入っているなんて思わないだろう? 分かりにくいように外の箱とは形を変えて、潰されないように硬い素材にした。ローションまみれなのは嫌がらせだ。ちなみに長細い箱の中身は空っぽだ」

「そのようだな」


 その後、里佳子が死んでいないと分かった警察は去っていった。

 箱の中身を公開されたためゲームは終了し、次の日には全員無事に卒業した。

 健太はち○ぽニキとして有名になり、その知名度を生かして動画配信者として成功しつつあった。

 めでたしめでたし。


「どうも~。ち○ぽニキこと健Tで~す。今日はデスゲームごっこをしたかっただけの教師にデスゲームを仕掛けたいと思います!」


 とは、いかないかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱の中身はなんだろな? 大道寺司 @kzr_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説