2話 殺害現場とスマホの謎
俺は現場にすぐさまバイクで直行した。コートが風に揺れる。
約30分後、山奥にある現場に辿り着く。
いつ見ても変な家だ。
真取の家はマトリョーシカのように、立方体型の大きい家にそれの一回り小さい立方体型の家が入っている、という入れ子構造になっている。
体育館程の大きい家が一番外側の家で、その中には4つの家が入っている。
つまり、1つの家でありながら、5つの家でもあるのだ。
真取はミステリー作家であり、デビュー作のタイトルが『マトリョーシカ殺人事件』だった。デビュー作ながら、100万部を突破し、彼の名前は瞬く間に世に広まった。作品の内容は巨大なマトリョーシカの中に、バラバラ死体が1パーツごとに入っているというものだった。真取は昔からマトリョーシカが好きで、それを作品に活かしたという。好きなものを陰惨な殺人の道具の1つにするのは、すこし変態的だなと俺は思う。しかし、そういう性癖があるのかもしれない。
ともかく。彼はマトリョーシカが好きすぎて、自分の印税で手に入れた巨額の大金を使って、このマトリョーシカに似た構造の家を作ったわけである。
【参照してください
立方体型・マトリョーシカ・密室・バラバラ殺人事件の現場の見取り図 - カクヨム https://kakuyomu.jp/users/muratetsu/news/16818093073476195471 】
現場に入ると、まだ鑑識途中で、死体は残っていたままだった。
あまりの惨たらしい死体に俺は息を呑んだ。
1つ目の家ドアを開け、左回りで家を回ると、両脚が見つかった。両脚とも中心に向かって膝を曲げて、所謂くの字型になっていた。
2つ目の家のドアを開けると、目の前に腰部が見つかった。臀部が上になっていた。
3つ目の家のドアを開け、左回りで家を回ると、胸部が見つかった。背中の方が上になっていた。
4つ目の家のドアを開け、左回りで家を回ると、左腕、右回りで家を回ると、右腕が見つかった。両方とも手の甲が表を向いていた。
そして、最後の5つ目の家、真取の書斎のためにある家なのだが、そこには生首があった。壁を見るように、顔を横に向けていた。その顔は、とても苦しそうな表情をしていた。やはり、殺人事件なのだろうか。
彼の服装はバスローブだったらしい。胸部の横にバスローブがあった。朝風呂に入り、頭を冴えさせてから執筆するのが真取の日課だったので、その際に殺されたのだろうか。
真取の家には窓が無く、天井に設置された夥しい量の換気扇と天井近くの側壁にある24時間換気口で空気を入れ替えている。のだが…換気扇も換気口も掃除が行き届いていないのだろうか。死臭が現場には立ち込めていた。
そういや、前に真取の家のリビングを訪れたとき、キッチン臭が立ち込めていた気がする。
一足先に居た、後輩の刑事に聞くと、現場は密室状態だったという。
密室状態…真取の『マトリョーシカ殺人事件』もアパートの密室で巨大なマトリョーシカが見つかる場面で始まるから、皮肉なものだ。
彼の妻は、友人と静岡旅行に行っていたらしく、今朝方に帰ってきたという。新幹線の予約履歴や、泊まった旅館のスタッフの証言、友人の証言から、彼女にはアリバイがあるという。
時刻表トリックというものがあるが、監視カメラが発達した現代では難しいよねと真取が言っていたことを思い出した。
ということは、やはり、犯人は妻とは別か。
真取は引きこもり気味で、仕事以外では他者とは俺意外とほぼ関わっていなかったかと思う。優しい真取が誰にも恨まれるようなことは無いが…考えられる線としては、他の作家からのベストセラー作家である真取に対する怨恨からか…うーむ。
俺はわけがわからなくなった。
足りない頭で逡巡を繰り返す。そのときのことだ。
第4の部屋で彼のスマホが見つかったと、鑑識官の一人から知らされた。
スマホ…
スマホが何か関係しているというのか。
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