しましまたろう

夏木

第1話

 むかしむかし、ある村にニートのしましま太郎という男がいました。

 ある日のこと、いつものように仕事探しもせず、お金が落ちていないかと湖のほとりを歩いていたところ、ひとりの可愛らしい天使が子どもたちにいじめられているのを見て、金にならないと素通りしました。


「ちょっと! 助けなさいよ!」


 天使は自らの力で子どもたちを退けさせると、しましま太郎を追いかけて言いましたが、しましま太郎は面倒には首をつっこみたくなかったのと、お金が貰えそうにもなかったので聞こえないふりをして帰りました。


 数日過ぎたある日。いつものようにほっつき歩いていると、空から天使が降りてきました。


「私はあなたに見捨てられた天使よ。大天使様があなたを天界に連れてきなさいと言ってるの。行くわよ」


「金がもらえるのかい?」


「お金よりいいものがもらえるわ」


 お金に勝るものはない、そう思っていたのでしましま太郎は首を横に振ります。


「あなたに拒否権はないわ」


 天使はそう言うと、しましま太郎の首に手を伸ばしました。そこから強い電流がながれ、しましま太郎は為す術もないまま倒れ込みます。


「人間ってしょうもないわね」


 天使はこうしてしましま太郎をはるか空の彼方にある天界へと連れて行きました。



 天界の足場は雲。

 天使たちは白い翼を羽ばたかせ、人間たちの様子を観察しています。

 その中でも大天使はそれはそれは美しい方でした、


「しましま太郎さん、しましま太郎さん」


「あー……どこだ、ここは」


 天界で目覚めたしましま太郎は、大天使の声で目覚めました。

 見渡しても白しかない世界に混乱しつつも、大天使のみ美貌に鼻の下が伸びます。


「天使を助けていただきありがとうございます。どうかゆっくりしていってください」


 しましま太郎はなにもない雲の上に連れて行かれます。そこで天使たちから、味はともかく、たくさんの料理をごちそうになりました。

 しかし、食べても食べても腹は満たされません。真っ白な世界に飽きがきます。


「飽きたし、金もらえねえんじゃ、もう帰るわ」


「いつまでもここにいていいのですが、仕方ありません。帰れるものなら帰っていただいて構いませんが……手土産にこちらの玉手箱をどうぞ」


「金か? それとも宝石か?」


「いえ。ですがお金よりずっと大事なものが入っています」


「チッ。要らねえ」


 しましま太郎は悪態をつくと、雲と雲の隙間に飛び込みます。


「お待ち下さい!」


 大天使や天使たちの呼び止めに応じず、しましま太郎は頭から地上へむけてダイブしたのです。

 誰もが死を予感しましたが、しましま太郎は死ぬなんてことはしません。借金取りから逃げるために身に着けた飛行魔法で、まるで鳥のように飛んでみせました。


 残された天使はあ然としながらも、大天使に聞きます。


「大天使様。こちらの玉手箱はどうしましょう? この中にあの男への請求書が入っていますが……」


「着払いで送り付けておきなさい」


「かしこまりました」


 天使が木箱に宛名を記載する。それを地上の一般宅配便に託します。


「これで天使の治療費とここでの飲食代は賄えますね。みなさん、お疲れ様でした」


 大天使は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべました。



 さらに日が過ぎたとき、天使がしましま太郎に送ったはずの玉手箱を持って大天使のもとに訪れました。


「しましま太郎という男、住所が変わっており追跡もできませんでした!」


 定職につかず、その日だけを生きるしましま太郎。住居を持たず、転々と移動していたので天使てさえも見つけることができなくなったのです。


「あの男……! どこかで生きているはずです! 何としてでも探し出しなさい」


 大天使の声は遠くまで響き渡ったとか。

 怒り狂う様をしましま太郎は笑いながら透過魔法で近くで見ていたことを大天使は知りませんとさ。

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