魔法少女ものから段々逸脱してませんかこれ?
「——女王蜂の正体は、詩音って子のお姉ちゃんだよ」
改めて魔法少女になることを誓った直後、ピンクは静々と語り始めた。
「……それは、いつからだ?」
気づいたか、と薄く笑うピンク。
「生まれたときから、いや、お母さんのお腹にいたときに、あの子は蜂に取りつかれた。そして自分が怪異だって自覚もないまま成長して、大体5、6歳くらいで覚醒した」
「つまり、詩音ちゃんのお姉さんは、蜂としての人格と人間としての人格があるってことか?」
「そんな甘いものじゃないよ。あの子の中にある人格は一つだ。自分を蜂とも思っているし、普通に生きた人間とも思っている。つまり、熔け合っているんだよ。人間に擬態する怪異はそうやって、正体を一切ばらさないまま世界に融け込んできた」
「それじゃ、仮にあの蜂を倒したら、彼女の身体はどうなる? まさか死ぬわけじゃないよな」
僅かの間の開けて、ピンクはこの問に返したのだった。
「————
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「アアァ忌々シイ。魔法少女、忌々しい! ワタしの子供たちを散々殺してきたオマエタチが、憎たらしい!」
病室のドア付近で女王は身体を震わせた。その嬌声に怯える詩音ちゃんを庇うように前へ出る。
「なぜ人を襲う」
聞くと奴は、首をカクカクと機械的に蠢かせながら「ギギギ」と口の鋏を鳴らした。
「キマッテいるでしょう? ドウ考えてもワタシたちのホウが、上位にタツベキ種族だからデス! ゴキブリのヨウニ数を増やすダケの肉塊ガ、ドウシテ世界を支配しているのか! 全くワカラナイことです!」
「……そうかよ。同情くらいはできるかと聞いてみたが、無駄だったな」
ベッドの上の詩音ちゃんが、恐る恐る「パープル……?」と呟いた。
……ずっとやらかしてばかりだ。彼女の憧れが今の俺なのに、気持ちが先行して口が悪くなってしまっている。
だが、それでも止められない。
「詩音ちゃんの姉貴なんだろ。そのところどう思ってるんだ。仮にもまだ……人間の心は残ってるんじゃないのか」
「ハア?」
一層甲高い声を上げて敵は笑い声を返した。
「あんなもの、ツギのウツワ以外のナニモノでもなくてよ?」
「……そうか」
これで話を切るつもりだった。だけど蜂は、傲慢にも自語りを続けた。
「妹? 姉? 確かにソウデストモ! だからこそ妹はムザンにコロスノデス! ダッテ、ワタシの下デショウ? そんなものにワザワザ優しくしてやるリユウが、ドコニアリマシテ!? それに魔法少女など……ソンナモノに夢中になるなんて愚かとしか言いようがないデスワ!」
「俺はな!」
強引に喋りを切らせる。
もう、黙って聞いていられない。
「こんな格好で、町の平和を守るなんてまっぴらごめんだったけどな……それでも」
外で待つ幽霊の視線を感じる。だが、俺は続けた。
詩音ちゃんのすぐ前で、俺は誓った。
「こっちは、『憧れ』背負って生きてんだ! ここに今、一人でも俺を頼ってくれる奴がいるなら、その子のためだけの魔法少女になってやる。人の憧れを無駄と吐き捨てるようなやつなんかに——俺が負けるはずがねえ!」
ふと、後ろで、少女のすすり泣く声が聞こえた。
振り返らない。
俺はこの誓いをもって、目の前の敵を完膚なきまでに倒す覚悟を決めたのだった。
「じゃあ実力で示して見なさい。魔法少女がワタシにカッタ試しナドないのデス!」
剣を抜き、羽根を震わせ怪異が飛び込む。反撃はしない。およそ一メートルほどの距離になったところで一閃を躱し、同時に外へと飛び出していった。
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夜空を音速で飛び回りながら蜂と打ち合う。ステッキと剣を交互に突き合わせ、今まで経験したことのない血みどろの戦いを繰り広げていた。
衣装もボロボロ、距離を取り光弾を撃とうにもすぐに距離を詰められる。
「ドウデスこのハヤさ! ソシテワタシの剣捌き! 撃つしか能のない魔法少女に、ワタシが捉えられますか!?」
……できない。
今はただ必死に抑えて、町に被害が出ないように逃げ回るしかない。
「アア良い顔! その顔がミタクテワタシは返ってきたのデス!」
「はっ……大人しく大学に籠って、勉強でもしとけばよかったのにな!」
「戯言!」
迫力ある一突。身体を射抜かれたらまずいと察してバリアを張ったが、かなり遠くまで飛ばされた。
「ニンゲンの営みに興味などなし。一体何年、ワタシが生き延びてきたと思うのデス? 500年デスヨ」
遠くに飛ばされてんだから何言ってるのか聞こえねえよ、このタコ。
でも、都合がいい。
「……ニゲタ? はっ、待ちなさい!」
蜂が剛速球で追跡してくる。
それでいい。いくらでも追ってこい。
その先の場所で……全て終わらせる。
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「ここでいい」
そこは人のいない工場跡だった。
空中で浮かび尽くしていると蜂が追いついたようだった。
奴は空中を優雅な足取りで歩きつつ、
「ワタシ、これだけ飛んでも全然疲れません。すごいデショウ?」
と抜かした。
「そうだな。流石500年ババア。30手前の俺とは格が違うわ」
「はっはっはっ! そうでしょうそうで……は、ババア?」
俺は振り向く。
顔は汗でぐっしょりだが……まだ、煽るだけの余裕はある。
「業突ババアが。人間舐めんなよ?」
笑ってやった。心からの煽り顔を見せてやった。
返ってくるのは、沈黙。
「……」
静かに剣を持った蜂は、音速で10メートルほどの距離を突き抜けた。
だがその前に。
俺は既に、呟き終えていた。
『————
瞬間、周囲を熱と光が襲った。いや、纏ったと言うべきか。
「ナニ!?」
蜂は爆風に押されて動きを止める。
「ナンダコレは……魔法少女に、これほどの魔力がアルナドと!?」
まるでテンプレ通りの驚きっぷりで精々する。
だが、ビビってるのは俺も同じだ。
話には聞いてたけど、まさか本当にここまでキツイとは。
「要するに、だ」
爆炎が晴れていくタイミングを見計らって俺は語りを再会した。
今自分の身に起こったことを確かめるように。
これもまた、自分の力なのだと納得させるように、話した。
「魔法少女は……二度、転身できるってことだ」
蜂の目の色が変わったのがわかる。
俺の姿も、変わったのがわかる。
フリフリのドレスだったものは、淡い紫の着物へと変わり、
ツインテールは、動きやすいようにポニーテールとなり、
マジカル☆ステッキは、五尺ほどの大太刀へと変貌していた。
今の俺は、魔法少女とは呼べない。
身長こそ変わらないが……まさに、武士の様相を呈していた。
「その姿……ナンデス!?」
俺は口を開く。
幽霊から告げられた、この姿の名を、告げ直した。
『————
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バイト先の先輩に「君はジャンプは何で育ったんだい」と聞かれ、
「BLEACHです」と答えたら
「ああ……そんな気がするわ」と返されたことがあります。
家では鏡の前で後ろ向きに立って、顔だけを動かして、
「天鎖斬月」と呟く遊びを日常的にやっています。
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