第8話 「収集家」の最期
男は逃げていた。血の垂れてくる肩を抑え、必死に足を動かしていた。顔には玉のような汗が浮かんでいる。
男にはわからなかった。自分がどこで間違えたのかを。なぜ自分の
(ッ……だがひとまず生き延びられるぞ……)
息を荒くしながらも、男は安心する。
ああ、確かにもうここでは活動できない。ならば今度は別の州へ行けばいい。そこでまた新しい仕事に就き、趣味を続けられればいいのだ。
結局あいつらは警察ではない。わざわざ自分を追いかけることなどしないし、できないだろう。
未来の計画を思い浮かべられるほど、男に余裕が生まれてきた。だがしかし、またもや彼は道を誤ったのである。
ペストたちがそう簡単に自分を見放すと思ったことが間違いだったのだ。彼が「作品」にした被害者たちの目は男を見逃すことはなく、また最初っから男の動きを見ていた青年も彼を見失うことはなかった。
「お前が負けた理由の四つ目だ」
真莉は家の中でぼそりと呟いた。
「箱が自由を阻害する厄介な空間だからだ。そこに我々を入れたお前が、今更自由を味わえると思うなよ」
男は疲れてきたのか少し立ち止まって、息を整えようと壁によりかかった。
そのとき後ろから、待ち構えていたようにゆっくりとした足音が響いてくる。
男が振り向くと、背の高い、赤褐色の髪をした青年が、刃物を手で遊びながら、ゆっくり近づいてくる。緑色の鮮やかな目は、暗闇からじっと男を凝視していた。
「な、なんだお前は……」
男は恐怖でガタガタ震えはじめた。
「こんばんは」
青年はにっこりと笑って挨拶する。
「僕はアーベル。本当は名前を名乗っちゃいけないんだけど、君にならいいと思ったんだ。なぜなら」
そこで薄く目を開く。
「お前はどうせ死ぬからね」
「ヒィッ!」
男は怯え、また走り始める。しかしパニック状態の脳は、自分がどこを走っているのかうまく認識させることはできない。
辺りを回る男に向かって、アーベルは確実に一歩ずつ彼に近づく。
とうとう男は行き止まりについてしまった。彼が殺したペストたちと同じように。そんな哀れな彼に、大きくなったアーベルの影が落ちる。
青年はすぐに枝を巻きつけ、男の体をがっちりと固定した。
「さあて、どんな殺し方をしようか。君にはできるだけ苦しんでもらいたいんだよね。どうやらガスとか使ってたみたいだし、毒で死ぬっていうのはどうかな」
「やめろ……やめてくれッ!!」
「命乞いとかやめてくれよ。芸術魂が醜くなってしまうだろう」
アーベルはにぃっと笑う。彼は処刑の執行人だ。警察に頼れないペストたちの代わりに、罪あるものを罰する人だ。
その晩、彼はとある
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