第4話 明かす者たち1

「メリーアン、ちょっと待って!」聞きなれた声が廊下に響き渡る。


 その声を聞いた背の高い白衣を着たブロンドの女性が歩みを止め振り返った。髪の長い目鼻立ちのくっきりした白人女性で、化粧が薄いせいか目立つ顔立ちではなかったが、そのたたずまいは凛としており無機質な大学の廊下に非常に映えていた。

 彼女、メリーアン・ブラックウェルは世界中で報告されている新種の生物群の調査に関するミーティングに出席するため会議室に向かう途中だった。廊下の向こうからはすこし肉付きのよい、黒髪をボブカットにした浅黒い肌の女性が急ぎ足でこちらに向かってきていた。やはり声をかけてきたのは同じ研究室の助教であるスージー・モートンだった。


「どうしたの、スージー?」彼女の声には、常に落ち着きと自信が漂っている。


「急いでいるところごめんなさい。でもスミスがくれた報告書が興味深くて。たぶん会議でも貰えるとは思うのだけど、出席する前に少し話したくて。これよ、見て!ハンプシャーから送られてきた植物サンプルのデータよ。おそらくバラ科の植物なんだけど、その大きさは別として形態は複数の種類のバラやその他の植物の特徴がありつつも、どれとも一致してなさそうなのよ。これからスミスのところで染色してスライドを作成してくれるようだけど、かなり興味深いわ!」スージーは息を切らしながら、一番上にあるファイルをメリーアンに手渡した。


 メリーアンは受け取ったファイルをパラパラとめくり、中身を確認する。彼女の眼光は鋭く、新種の生物群に関するデータに瞬く間に鋭い興味を示した。


「確かにね。あとはシーケンサーでDNA配列を調べて、実際の遺伝子配列がどうなっているかを確認したいわね。」


「そうね。あと私たちの方にはそろそろ魚のサンプルが到着するらしいから、あなたがミーティングから帰ってくるまでに解剖の用意をしておくわ。何か他にしておいてほしいことはある?」


「任せるわ。信頼してる。あ、でもできれば冷蔵庫に入っているパウンドケーキとお茶を用意してくれると嬉しいわ。会議って疲れるから。3時には終わるはずだから解剖の前にティータイムとしましょう。」そういうと彼女は受け取ったファイルをスージーに返した。

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