ぼくは箱推し
達田タツ
箱推し
モニターはつけっぱなし。
起きている時も、寝ている間だって。
音さえダダ漏れ。
理由はたったひとつ。
箱推ししてる、ぼくの大好きなバーチャルストリーマーたちのために。
映される映像も、聞こえてくる声もいろいろ。
雑談だったり、ゲーム実況だったり、仲間たちで素敵な企画を催していたり。驚くようなことがあると、わぁ! と可愛らしい声をあげて。たまに絶叫も響くけど、耳障りなんかじゃない。
モニターはずうっと、彼女たちの言葉とぼくをつないでくれる。
ぼくは見ているだけ、聞いているだけ。
でもしあわせなんだ。
たいていの場合はひとりで配信しているけれど、皆で遊ぶ日もある。とっても仲良しで、ひとりの発言や行動が突然大きな笑いの渦を起こす。
そんな腹を抱えるような奇跡が、彼女たちが集まると、ふっくらと炊き上がったご飯のように盛り上がるんだ。
いとおしいんだよ。
彼女たちのようなひとが、ぼくの周りにもいてくれたらって、思う時もある。
だけど叶わない。
笑ってくれて。
叱ってくれて。
なんでもない時間を一緒に過ごす。
そんなひとがそばにたくさんいるなんて、きっと恋人をひとり見つけるよりも、ものすごい運が必要なんだよ。
ううん。
ぼくだって立派な運の持ち主。
彼女たちと出逢えたのだもの。
おもちゃを見つけたのとはワケが違うよ。
彼女たちの動きと言葉を受け入れるだけなのに、こんなにしあわせになれるもの。
それって……素敵な出逢い、だよね?
なんて、認めてくれるひとさえいないけれど。
だからモニターはつけっぱなし。
ぼくの体を刻む孤独の寂しさが、きれいさっぱり消え去るから。
なにもない窓の外を眺める日々は忘れた。
最後に笑ったのいつだっけ、だなんてお伽噺になった。
あたたかいしあわせを抱き締めているおかげでね。
モニターはつけっぱなし。
推しの箱は、とおい場所にいる。
いつまでも、とおくて。
どこまでも、とおくて。
だからぼくは愛している。
君たちを。3000光年先から。
ぼくは箱推し 達田タツ @TatsuT88
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