ダメと言われてしまえば
出雲 水雲
箱がそこにあった
姉の部屋は白い。
壁も、床も、天井も、ドアも、家具も、カーテンも白くって、どうしようもないことにテレビジョンのスクリーンだけは黒いのだが。
真っ白い壁の材質は分からない、布のような感触で、爪を立てて抉れば呆気なく剥がれてしまう 、あんな感じの。
そんな白に四方八方囲まれて逃げ場は白のカーテンに隠された面積90平方センチメートルの窓のみになってしまうような姉の部屋に、私はいた。
姉の部屋に入ってしまったのは、まぁまだいい。温厚な姉はきっと、入ったくらいでは怒ったりなどしない。ただにわかに微笑んで、いつものように「そう」と言うだけ。
でも、私の視線の先にあったのは、そんな脳内の姉の笑顔ではなく、現実世界、3次元に存在する、「箱」であった。
箱の大きさは高さが目測30センチメートル 。
長さが40センチメートルほどだろうか。
上から覗けばほとんど正方形に見える 。
ダンボールの箱だ。
気になって仕方がない心理を抑え、私は今背後にあるドアへと体の向きを変えた。
が、直後再び向きを変えた。
逆の逆は元の状態になることは、小学生でも分かることである。まぁ至極簡単に言えば、目の前に箱が帰ってきたということ。
私はもう一度、箱を覗き込んで先程興味を抑えた理由である、紙の日本語に目を通した。
『箱を開けてはなりません』
1文、たったの1文だ。
そのたったの1文で感情とはある程度抑えることの出来るものなのだなと、頭の中で人間の理性を褒めちぎった。
さて、どうすることかと自問自答した。
私はこの箱が少しだけ気になる、否、非常に、とんでもなく気になる。
だが、姉の優しさにつけ込んでわざわざ嫌な思いをさせることは間違っているだろう。
理性の結論は、開けずにこのまま部屋を出ること。
だが今、心做しか動いた気がしなかったか?
もし動いたのなら、中に生物がいる可能性が高くなってくる。
生物を中に置いておいては、窒息してしまうのではないか?
箱を見たところ、空気穴などは無いようなので尚更だ。
そっと、手を伸ばそうとした。
ちょっとだけ。
そう、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
中にある物がなんなのか、それを確認したら直ぐに箱を閉じ、部屋から出ていこう。
理性の敗北が決定した時、私の指がダンボールに接触した。
そっと閉じ込んである蓋を開けようと力を込める。
蓋を、開けた先には_
ダメと言われてしまえば 出雲 水雲 @syalis14
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
箱/千瑛路音
★10 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます