アーテーの谷

間何歩

第1話 暗雲

 北海道の某所。海よりも低い海抜ゼロメートル地帯。ゼロメートルと言っても近所の海と同じではない。そこは海抜-3800m、富士山をスッポリ治めるほどの谷を形成している。どうしてこんな谷があるのか詳しいことを知るものはいない。一説には何かの宗教団体の実験の跡だとか宇宙軌道上から流星が落ちたなどと言われている。深い谷は通称・Fresh Vally、コンドルの谷などと呼ばれている。海抜-3800m、谷にある一室は重たい空気が充満していた。医療用の服を着こんだ男性たちは何やら激しく言い争っている。

 「どうしてこの国は世の中を救う発明に気付いてくれないんですか!」

 「無視してるのさ」

 「被害者と加害者、どちらが無視されると思ってるんだ!」

 「被害者が無視される世の中だ。当たり前だろ!」

 「いいや、加害者だ。お前が加害者だと言えば、人は無視するものだ!」

 「小さな傷と大きな傷、無視されるのはどっちだ」

 「大きな傷だ。誰かが治すまで無視されたままだ」

 「小さな傷だ。コストを払う必要がないものは無視する」

 「この国は病んでいるのだ」

 「そうだ、病んでいる。誰かが治さなければならない」

 「我々の手で国の病を治すのだ」

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