ミエド

 僕の試合の後。

 戦ったのはミエドであった。


「勝者っ!ミエド・ニヒルームっ!」


 対戦相手は侯爵家の次男坊であるカマ・セタロワ。

 しっかりとした実力者であったが、単純にミエドが強かった。

 彼女の圧倒的な剣の技量はカマ・セタロワに何もさせず、圧倒的な勝利をもぎ取ってみせった。本当に圧倒的な戦いだった。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお、俺が、俺が女なんかにっ!クソっ!?なんでだぁっ!」

 

 カマ・セタロワは悔しそうに地面をたたいて声を荒げる。


「……」


「クソがぁっ!?すかしているんじゃねぇぞ、クソアマ……婚約者もいない分際で、女らしく髪も伸ばさず剣など持ち寄って……貴族として失格だっ!何を考えているのか、お前はただ可愛らしく着飾って子供を産んでいればいいのだ!余計なことをして可愛げのないっ!」


 そして、そのまま無様に声を張り上げて何とも情けない負け犬の遠吠えを響かせ始める。


「カマ様。お気持ちはわかりますが、それでも此度の勝者はミエドとなります。今はおさがりいただくよう」


「……クソっ」


 カマ・セタロワは何処までも悪態をついた態度のまま、踵を返してステージから降りていく。


「それでは、ミエド様も」


「……はい」


 男女平等がやってくるのはまだ遠い話。

 逆風の中、明らかに自分の勝利を望まれていなかった中での己の勝利に表情を沈ませているミエドがステージから降りてくる。


「お疲れ様ですの」


 そんな彼女へと僕は声をかける。

 

「あっ、うん。ありがとう」


 それを受けてミエドの方も足を止めて僕の方へと視線を送ってくる。


「あいつの話に関してはそんな気にする話でもないですわ」


「大丈夫よ。そんな気にしていないのもの」


 慰めるような僕の言葉に対して、ミエドは気にしていないと告げながら首を横に振る。


「負けて喚き散らすような雑魚のことを考える必要はないですの」


 だが、それを無視して僕は言葉を続けていく。


「貴方はしっかりと力を示し、勝ったですの。それは褒められたことですわ。だから、胸を張っていいですの。たとえ、世界の誰もが肯定しなくとも、私だけは貴方を認めますわ。今、最も名誉あるドラゴンスレイヤーとしてですの。胸を張ってくださいまし?」


「……ふふっ」


 僕の言葉。

 それを聞くミエドは笑みを漏らす。


「ありがと」


 そして、そのまま僕に対して感謝の言葉を告げる。


「どういたしましてですのっ!」


 それを受け、僕は自信満々に胸を張りながら頷くのだった。

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