ドラゴン

 大事なのは隠密行動である。

 周りの大人たちにはバレないように、エルフメイドと共にストレーガ家の屋敷から脱走して国を移動し、ドラゴンの住まう山岳へとやってきていた。

 ここに来るまでの移動としては三日ほど。

 この三日間で誰にも見つかることはなかった……これで第一の試練は突破したと言っても良いだろう。


「……ほ、本当にやるのですが?」


「ここに来てまで何を躊躇っているんですの。ここで私たちが魔物を倒して英雄になるのですわ!」


 これから、自分たちが倒そうとしているのは長らく国の癌として君臨していたドラゴンである。

 こいつを倒したときの名声、そして経済的利益は素晴らしいものになる。

 ドラゴンスレイヤーという名声は僕を王子以上の存在へと跳ね上げてくれるだろう。


「戦闘の用意出来ていますの?」


「私の方は問題なく出来ております」


 今、自分の隣に立っているエルフメイドはずいぶんと動きやすそうなメイド服を身にまとい、腰に二本の刀をぶら下げている。

 エルフメイドは極東の技術である刀術を納めたつよつよメイドである。


「……そんなことより、お嬢様の方が大丈夫ですか?」


「私はこれで問題ないですわ」


 今の僕は華やかで派手なドレスを着こなしている出で立ちだ。

 決して戦闘のときに着る服装ではないが……それでも、戦いだからと僕が美しくない服を着るなんてありえない。

 やはり、僕は華やかで派手なドレスこそが似合う。


「……そうですか」


「そうですの」


 なんとも言えない表情で告げるエルフメイドの言葉に僕はうなづく。

 心配しなくとも負ける気は微塵もしない。

 ゲームとか抜きに、純粋に僕の魔法の実力はかなり飛び抜けている自信がある。

 僕こそが天才であったのだ。


「それじゃあ、行きますの」


 僕はエルフメイドを連れ、ドラゴンが根城としているだだっ広い山の中腹へと降り立つ。


「……っ!?」


「……おぉ、いましたわ」


 お目当てのドラゴンは直ぐ目の前にいた。


「こ、これが……この国に長年巣食らっていたドラゴン」


「良いですわ……これくらいデカい方が私の名声に近づきますの」


 その場で丸まり、瞳を閉じていたドラゴンはすぐに自分の前に降り立った人間へと気づいてゆっくりとその体を持ち上げていく。


「ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」


 そして。

 黒塗りの鱗を輝かせ、紫がかった翼を広げる威圧感たっぷりなドラゴンは、その場全体を震わせるような大きな咆哮を上げるのだった。

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