お風呂
「お風呂ですわぁー!」
貴族の邸宅にふさわしい。
巨大なお風呂の中で僕は大きな声を上げる。
「そうですね……」
そんな僕の隣には恥ずかしそうにバスタオルで全身を隠しているエルフメイドの姿もある。
「お風呂くらい簡単に入れられるですの」
僕は何もない湯船へと魔法で水を入れ、それを炎の魔法で加熱。
ちょうどよい温度へと変えてしまう。
これくらい誰もが出来るだろう。
「こんな簡単に出来るのだから全員がお風呂に入るべきですわ」
「いや……普通はわざわざ大事な時間を削ってお風呂になんて入らないのですよ。濡れたタオルで軽く体を拭くくらいです。お風呂を貼るにしても場所を取りますし、ぶちまけた水をどうするのかという問題もありますし」
「……」
衛生観念はどうなっているんだ。
入浴は大事だろ。公衆浴場用意してやれよ、場所くらい上げろよ。
古代のローマ以下だぞ。
「……私は臭い女を自分の側に使えさせたくはないですわ。少なくともお前は毎日入るのですわ」
「お嬢様からの命令であれば仕方ありません……それではお風呂の方に入らせてもらいますね」
僕の言葉にしぶしぶながらも頷いたエルフメイドは当たり前のような表情で体を洗いもせずに湯船の方に入ろうとする。
「ま、待つですわー!」
そんな彼女を僕は慌てて止めに入る。
「なんでしょうか?」
「体を洗うのが先決ですわ!シャンプーや、ボディーソープを!」
「わ、私まで洗うのですか!?石鹸類も高価なのです!」
「それでもですわ!私の命令ですの。貴族家ならふんだんに使っても問題ないですの」
「ですが……」
「これは命令ですの」
三日も風呂に入っていないやつが石鹸も使わないなんてマジでありえない。
「ほら、座るのですの」
僕はいくつもある鏡の前に座らせ、石鹸類を叩く。
「これらをしっかりと使うことですわ!」
「……わかりました」
メイドは基本的に主の言葉には絶対。
エルフメイドは僕の言葉にしたがって自分の体を洗い始める。
ちなみに異世界には蛇口を捻ればお湯が出てくるようなシャワーはない。
自分でお湯を出すのが一般的である。
「ふんふんふーん」
しっかりと僕は自分の髪を丁寧に洗い流していく。
だが、それよりも前に僕は信じられないものを見てしまった。
「……も、もうちょっと丁寧に洗うのですの!」
少量のシャンプーでわずかに頭を撫でるくらいで洗い流そうとするエルフメイドの姿を見て驚愕した僕は慌てて止めに入る。
「な、なんでですか!?これくらいで十分でしょう!」
「もういいですわ!私がメイドの全身を洗いますわー!」
「えぇ!?」
あまりにも雑な洗い方しかしないエルフメイドにムカついた僕は強引に彼女の体を洗い始めるのだった。
■■■■■
しっかりと自分とエルフメイドの体を洗い終え、脱衣所の方に戻ってきた僕は自分の髪を丁寧に脱水していた。
魔法でスピーディーかつ丁寧に。
「……ここまでのことをしているとは思いませんでした。ほとんど湯船に浸かっていないじゃないですか。髪一つだけでうるさすぎですよ」
僕がそんなことをしている中、髪が短いこともあって自分よりも早く髪を乾かし終えたエルフメイドが着替えの方へと手を伸ばしながら呆れた声を漏らす。
「これくらい当然ですわ。私の美しさを保つためには当然のこ……ま、待つですの」
エルフメイドの言葉に答える途中、信じられないものを再び見てしまった僕は慌てて彼女の右腕へと手を伸ばして捕まえる。
「えっ?何ですか?」
僕が自分の腕を伸ばして捕まえたエルフメイドの右手。
そこにはずいぶんとシミやらなんやらで真っ黄色になっているパンツの姿があった。
「そ、それはなんですの?」
「わ、私の下着ですけど……その、そこまでまじまじと見られるのは流石に恥ずかしいのですが」
「そ、それどころじゃないですの!その、下着はお風呂へと入る前に履いていたやつですの?」
「え、えぇ……そうですけど」
「洗っては?」
「いませんが……」
「どれくらい使っている?」
「えっ?これは三ヶ月くらいです」
「か、変えるですの!?き、汚いですの!?」
僕はエルフメイドから聞きたいことをすべて聞き終えるとともに動揺の声をあげる。
三ヶ月連続で使い続けているのなら、そりゃそれだけ汚くなるはずである。
「お嬢様。毎日ご自身の服を新品になさり、前の服を捨てているお嬢様とは違い、私たち一般人には毎日新しい服を変える余裕はないのです」
「いやいや、だからといってその下着は……というか、待つですの?捨てている?」
「はい、捨てていますよ。変えるよう申し付けられたので」
「いや……洗濯をしてって意味」
「お嬢様。繊維は脆いのです。そんな何回も洗えるようなものじゃないのです」
「洗い方は?」
「えっ?回転させた水球の中に放り込んでいますが、たまに布団などを洗っているのを見ているでしょう?」
「……それが原因ですの」
僕はエルフメイドの言葉に頭を抱える。
いくら質が低くとも丁寧に洗えればもっと使えるだろうし、そもそもとしてこの世界の服も質が低すぎる。
魔法に頼り切りなせいで全然普通の技術が進歩しない。
「……もう信じられねぇですの」
これが異世界の公衆衛生……っ!
道行く女の人のポンツがすべて黄ばんでいるとかもう普通の感覚で街を歩けない。
「とりあえず……その黄ばんでいる下着は捨てるですの。これからは私が洗濯をするですの」
「えぇっ!?」
僕はとりあえず、エルフメイドには黄ばんでいる下着を捨てさせるのだった。
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