新型テロリスト・ミラー五郎
狐付き
ミラー五郎の箱
「箱……か?」
「ええ、箱です」
ある日、警視庁に箱が届けられた。
送り主には『ミラー五郎』の記載がひとつ。
ミラー五郎。それは数年前から活動している新型テロリストの名前だ。
新型というのは、従来のテロリストと違い爆弾や毒、化学兵器などを使わずにテロ行為を行う、自然にやさしい、正に現代的といえるグリーンなテロリストだからだ。
とはいえテロリスト。今までに亡くなったひとの数は100を越える。特に新宿駅地獄変は酷かった。どうやって全車両にバッファローを積載してきたのか未だに不明である。
そんなミラー五郎が警視庁に箱。怪しい。
先に述べた通り、爆発物や毒などは心配ないだろう。そこだけは助かる。
しかしそんな相手だけに不気味だ。なにが入っているというのか。
「X線にかけてみたか?」
「まさか。恐ろしくてできませんよ」
新宿駅のホームの数は上下合わせたら地上だけでも20を越える。その全てに到着した列車にバッファローを満載するということをやってのける相手だ。X線に反応してなにかしらが起こるよう設定することだってできるだろう。
だからといってこれを開けろというのも恐ろしい話である。
「どこか遠くへ持って行くというのは……言うだけ野暮か」
敷地から出した途端、なにかしらが反応して発動するかもしれない。
だからといってこのままにもしておけない。時限式の可能性もあるのだ。
「とにかく、ここで話していても埒が明かない。その箱があるところまで案内してくれ」
危険なのは百も承知だが、ミラー五郎の仕掛けである以上、ここなら安全というわけではないだろう。
「これが件の箱か?」
「ええ」
「……思ったよりでかいな」
そこにあったのは、1辺が1mほどある、そこそこ大きな箱だった。
「数字が書いてあるな……33-9か。阪神か?」
「警視正、なんJ民だったんですか?」
「いや子供がな……それでこれはなんの意味が?」
ふたりは頭を悩ませた。
「33-9……さざんがく……みみーきゅう……ミミック!?」
「それはファンタジー世界の話だろ。現実にそんなものがいるわけ……」
そこまで言って思いとどまった。今まで魔法でもなければ不可能と思われていたテロ行為を行ってきたのだ。ひょっとしたらミミックを創り出したのかもしれない。
「それで、どうすればいいと思う?」
「案外希少な魔導書が入っているかもしれませんよ」
「そんで食われて『暗いよー怖いよー』とでも叫べばいいのか?」
「警視正、意外にそっち系好きなんですね」
「子供がな……まあいい」
そしてふたりはまた悩む。
「それにしても、ミラー五郎らしくないですよね」
「ん? ……確かにそうだな」
ミラー五郎といえば、イベントの5日前に予告状を出し、イベント2日後に決行するという、いわゆるミラー五郎ウィークが発生するのがお約束だ。
とはいえこれは署名とマークからして本物であるとしている。おかしい。
「……開けるぞ。後は任せた」
「そんなっ」
警視正が箱を開けると、そこには大量の緩衝材が。
「アマ〇ンかよ!」
「でもこの緩衝材、全部藁でできてますよ。さすがといいますか……」
「全く、脅かしやがって……箱だ」
緩衝材をどけると、中から10センチ四方の箱が出てきた。
「もう疲れた。そのまま開けるぞ」
「そうですね……中には紙が入ってます」
「いつもの予告状じゃねえか! 驚かせやがって!」
警視正は憤慨しつつも安堵していた。本当の地獄はこれからだということを忘れて。
新型テロリスト・ミラー五郎 狐付き @kitsunetsuki
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