心臓に耳、近づけて

山本貫太

馬鹿と大馬鹿

「大発見をした、秘密……守れる?」


クラスで一番頭が良いにもかかわらず、なぜかド馬鹿な私を友人扱いしていた“いっちゃん”。あまりに真剣な表情に私は黙って頷いた。


「エロいこと考えながら……、ちんちんを触るとすげぇ気持ちいいんだ」


その一言で、コイツは勉強ができるだけで馬鹿なのだと悟った。いっちゃんが大発見を私に報告したのは小学四年生の夏頃だったように思う。彼にとっては天変地異だったのかもしれないし、誰かに伝えずにはいられない快感だったのかもしれない。


「知ってる」


私はいっちゃんの目を見つめて、できるだけハッキリと伝えた。


「幼稚園の頃からね」

「さすが、カンタだ……」


人が人を敬うときにだけみせる頬の紅みと瞳の潤み。やはり、いっちゃんは馬鹿だった。


「まだ、その段階なんだね。いっちゃんは」


けれども、私はその遥か上をいく馬鹿だった。勉強では勝てない相手に、エロさでマウントを取る。客観視すれば情けないことこの上ないが、私は調子に乗っていた。


「今度うちに来なさい、とっておきを教えてあげよう」


いっちゃんの目は輝いた。しかし、私は背中に汗をかいた。教師のような口調で約束をとりつけたものの、私には「とっておき」なんてものはなかったのだ。


家に帰ると私は絶望した。いっちゃんの尊敬の眼差しを永遠のものとするエロさを見つけねばならない。


「パソコン、かな」


当時、許可制でパソコンの使用が我が家では認められていた。カナヘビの飼い方を調べたい、釣りのゲームをしたい、と使用理由まで述べることが条件で実に寛大。使用不可を叩きつけられることは一度たりとてなかった。


私はその夜、父に「エロサイトが見たい」と伝えた。


「ちょっと待ってな」


父は普段私に使用を許可しているパソコンではない、黒黒としたパソコンを運んできた。


「ウイルスソフトが入ってるから、こっちで見なさい」


実に寛大である。父は常々「エロいことに興味を持つのは悪いことじゃない」と私に教えていた。けれども、父という立場にいながら息子にエロサイト閲覧を許可する決断が下せるのは、今思えば異常だ。


「ありがとう」


私はパソコンの画面を見ながら「さて」と考え込んだ。何を検索すればよいか。私は当時全盛期であった「おもしろフラッシュ」の広告やリンク先に可能性があるという目星をつけていた。


「これかな?」


私は何度もサイトを行き来し、ついにエロサイトへと辿り着いた。しかし、マンガのパンチラやラッキースケベがせいぜいであった私にとって、そのサイトは一足飛びどころか、ワープだった。


「え、咥えてる?」


動画の再生ボタンを押すと女性の、悲鳴に似た喘ぎが響いた。私はすぐに「戻る」を押した。けれども、またすぐにサイトへ舞い戻り、ボリュームを絞って、再生した。


「え、入ってる……なんか出てる」


二度目ともなると、不思議と冷静にエロさと向き合うことができた。同時に「ちょっとグロいな」とも。


そのサイトはどうやらエロ動画のサンプルばかりが並べられているようで、一分もしないうちに、全容が掴めないうちに画面は暗くなった。けれども、私には十分な刺激であり「とっておき」に成り得るものだった。


「どうだった?」


パソコン返却時、父は私に尋ねた。私がサイト名を伝えると「あー、あのサンプルばっかりの」と一言。父は既に知っていたのだ。私は目を輝かせた。父は目を細め、教師のような口調で告げた。


「もう少しオトナになったら、とってときのサイトを教えてやろう」


親子揃って大馬鹿である。


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