先生!私のこえ聞こえてます?

穂志上ケイ

プロローグ

 中学卒業式

 多くの生徒がその日の思いを噛み締め、写真を撮ったり嬉し泣きをしながら話生徒の姿が。その中でも……。

「ねえ、みのり。あの二人めっちゃ泣いてるね」

 周りの子たちよりも背が低くショートカットの女の子がある生徒たちを指差し、ロング髪の女の子に尋ねた。

 そこには男女生徒の姿があり、お互いに抱き合いながら泣いていた。

「ああ。あれね。二人付き合ってたらしいよ。知らなかったの?紗希」

「付き合ってた?」

「高校が別々だから仕方なく別れたらしいよ。それで泣いてるの」

「なるほどね」

 みのりはその二人をみて、羨ましいと感じた。

 どうやらそれが表情に出ていたのか、紗希がみのりに尋ねる。

「何、羨ましいわけ?」

「そりゃね。でも中学で作ってもああなるの分かってたし。だから……」

「そう。変なやつに引っかからないようにしなさいよ」

「勿論だよ」

(あ〜早く高校生になりたいな〜)

 

 高校卒業式

 私立御影高校にて

「早瀬せんせーい〜」

 女性教師に抱きつく女子生徒。その顔は涙で溢れていた。

「泣きすぎよ。湊さん」

 落ち着かせようよ生徒の頭を撫でる教師。

「だって、もう会えなくなっちゃうし。みんなも寂しいよね?」

 後ろを向き、多くの生徒に同意を求める女子生徒。

「いや〜、それは綾ちゃんだけでしょ」

 と別の女子生徒が冗談紛れに否定する。

 それに乗っかり男子生徒も。

「そうそう俺たちは別に……」

 だが他の生徒も徐々に涙を流し始める。

「せんせーい!!」

 多くの生徒が教師に寄り始め、まるでイベントの囲いのようになっていた。

「やっぱりお別れは寂しいよ」

「俺もまだ先生に教えてもらいたい!」

 先ほど否定していた生徒からの本音の声が飛び交い、教師はポロリと涙を流した。

「わあ〜ん。みんないい生徒だよ!これからもずーっと私の生徒だからね」

 沢山の生徒と苦しんだ廊下、楽しんだりして一緒に成長したこの一年。きっと何年経っても忘れない。だってこんなにも素敵な生徒に巡り会えたんだから。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、静まり返った学校には哀愁漂う教師たちの姿があった。

「終わりましたね、早瀬先生」

 ガタイのいい男性体育教師が隣に立ち、話しかけて来た。

「そうですね。大変な事もありましたけど、生徒から学ぶ物が多い一年でした」

「そう言えるのは早瀬先生が努力を惜しまなかったからですよ」

「努力なんて。私はただ普通に」

「普通ですか。でも生徒はそうは思ってないと思いますよ。みな口を揃えて言うんです。私たちの事を何でも分かってるみたい!まるで心の声を聞いているようだって」

 いつもながら生徒の発想や言葉には驚かされる。自分たちが想像もしない所から来るのは何年教師をしていても慣れない。

「本当に特別な事はしてません。ただ生徒に一歩寄り添っているだけです。金剛先生もそうですよね?私なんかよりも生徒に寄り添ってますよ」

 その言葉を聞いて、頭の後ろを撫で照れ始める金剛であった。

「あはは、早瀬先生にそう言ってもらえると光栄ですな」

 努力を惜しまない。私はそんな出来た教師じゃないのに……。

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