第35話 EP5 (4) シオンとネイサン(ウォードの弟)

 箱のデバイスから投影された映像が空中に映し出されている。ニーモのグレーズドケースとシオンのそれとの間にコネクションが確立された。シオンサイドの映像が映る。しかし人影は映らない。


「シオン、ネイサン、どちらかいるか?」


 ウォードが問いかけた。しばらくするとやや長めの黒髪の男が現れた。ネイサンだ。


「誰だ?」

「ジョンだ。久しぶりだな」


 ウォードは名前をジョンと言った。ジョン・ウォードの顔を見たネイサンはにやりと笑った。彼のフルネームはネイサン・ウォード。彼はウォードの弟だった。


「やあ、兄貴。元気そうだな。何の用だ?」

「お前もな。噂は聞いている」

「ふん、それで?」


 ウォードは素っ気ない態度の弟に対して、事務的に用事を伝えた。


「シオンはいるか?」

「ああ、隣の部屋にいる」


「ニーモからシオンに相談したいことがあるんだ。ニーモは知っているな?」

「もちろんだ。オーラから聞いた」


「もし時間の都合が良ければシオンを呼んでくれないか?」

「ああ、構わないよ。シオンを連れて来る。その前に、ちょっとニーモの顔を見せてくれないか?」


 ウォードはニーモと場所を入れ替わった。ニーモはネイサンに挨拶をした。


「ニーモです。よろしくお願いします」

「ああ、ネイサンだ。ジョン・ウォードの弟だ。兄貴のサポートをありがとう…… ふーん、レベッカとはまた少し違う感じだな。君は自分の体の細胞もいじれるのかな?」


「少し小さくなったり大きくなったりはできます」

「そう、人の精神のコントロールは?」

「それは……まだできません、と言うかあまりやったことが無いです」

「なるほどね。じゃあこれからだ。シオンに色々聞くといい。今呼んでくる」


 ネイサンはシオンを連れてきた。シオンはセミロングの髪に冷静な目つき。美人ではあるが、やや近寄りにくい雰囲気がある。


「こんにちは。私ニーモと言います」

「こんにちは。シオンよ」


 その後に、お互いの自己紹介を軽くかわした後、ニーモは本題を伝えた。人間以外の物体の形状変化は可能ななのか? 植物を小型にして枯れないように運搬するのにいい方法は無いか? その問いに対してシオンからは意外な回答が返ってきた。


「携帯型のグレーズドケースって知らない?」

「何ですか? それ」

「知らないかあ」


 ニーモはシオンが何の事を言っているのか良く分からない。


「あなたの未来の人の名前は?」シオンが訊く。

「未来の人って?」


 部屋の隅にいたコロが白状した。

「メルの事だよ」


 このタイミングでコロは初めてメルの正体を皆に明かしたのだ。ニーモを始めみんなが驚くのも無理は無い。


「メル? メルは未来の私なの?」とニーモ。

「何? 本当か? コロ」とウォード。


「ああ、そうだ。顔が似てるだろ。メルはニーモそのものだ」

「たまげたな。未来から来たのか」


 ウォードは驚いた。ニーモと何らかの関係はありそうだと思っていたが、まさか未来から来ているとは信じ難かった。


「でもメルは見た目ニーモと年齢があまり変わらないように見えたぞ。一体どれくらい先の未来から来たんだ? 何歳何だ?」


「メルはマスターヒーラーになったので歳は取らない」


 コロがそう言うと、ウォードは口をあんぐりと開けた。

「まさか……」


 ニーモは思った。

(メルがまさか未来の自分だったとは。道理で私と似ている訳だ)

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